“親孝行の精神“は絶滅寸前で珍現象も…中国の介護問題が日本よりはるかに深刻なワケ
親孝行の精神自体が絶滅しかかっている
9月18日付ニューズウィーク日本版は、「高齢者は社会のお荷物…日本化する中国の『敬老』」と題するコラムを掲載した。執筆者は日本で活動する中国出身のジャーナリスト・周来友氏だ。
今年7月、北京市へ4年ぶりに里帰りした周氏は、日本の「悪しき現象」が中国でも蔓延していることに愕然とした。悪しき現象とは「高齢者を社会のお荷物、厄介者のように扱うこと」だが、急速な経済成長を遂げた中国でも「老後の面倒を子供が見る」という発想そのものがなくなりつつあると実感したのだ。
中国政府は2013年7月、改正「老人人権益保障法」を施行した。「高齢者と別居している家族は、高齢者を頻繁に訪問あるいは挨拶をする必要がある」(第18条)との条文が追加され、高齢者への定期的な見舞いなどを義務付けている。
「親孝行を強要するような法律」として物議を醸したが、2016年8月に北京市政府が「北京市『十三五』(第13次5カ年計画)時期高齢者事業発展計画」を採択し、雇用側に“親孝行のための有給休暇”を与えるよう奨励した。上海市も同年5月に新たな「上海市老年人権益保障条例」を施行し、親孝行に反した者が「ブラックリスト」に掲載されることになった。
こうした様々な施策が各地で講じられたが、「老人人権益保障法」施行から10年が経過した現在、効果はまったくないどころか、親孝行の精神自体が絶滅しかかっている有様だ。
病院で診療を受ける患者に付き添う「臨時家族」
中国では2016年5月から、北京市を始め16都市で介護保険制度が試験的に導入された。享受できるサービス内容は日本とほぼ同様だが、対象が「主に都市従業員基本医療保険に加入した者」に限られている。
保険適用者が限られているのにもかかわらず、中国の高齢者介護サービス業界は慢性的な人手不足に悩まされている。このため、大卒者を始め多くの若者を同業界に引き付けるための優遇政策が打ち出されている。
CGTN Japanese(7月8日付)によれば、中国の地方政府は相次いで人材確保のために高額な入社一時金の提供を始めているが、高齢者介護専攻の卒業生の数が不足していることが災いして、状況の改善につながっていないという。
構造的な問題が顕在化する中、珍現象が起きている。近年、病院で診療を受ける患者に付き添う「臨時家族」が人気の職業になっており、一部では月収が2万元(約40万円)を超えることもあるというのだ(同8月13日付)。
深刻な就職難にあえぐ若者にとっては朗報だろうが、これにより、中国の介護問題が改善に向かう可能性は低いと言わざるを得ない。中国で慢性病を患う高齢者の数は2億人近いと言われているが、高額の手当を支払える高齢者は極めて少ないからだ。
日本の介護問題も大変だが、「豊かになる前に高齢化が始まった」中国の深刻さはその比ではない。「全土で介護難民があふれる」という最悪の事態を、中国政府は回避することができるのだろうか。
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