野村克也に「日本野球を変えた」と言わせた外国人選手とは? 「サイクル安打」も日本に紹介(小林信也)

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スペンサーメモ

 2017年1月2日、スペンサーの訃報を受けて、野村が「週刊ベースボール」の追悼文にこう記している。

〈スペンサーは投手のクセを盗む天才だった。人には見えないクセが、彼には見えたのだ。そして見抜いたクセを、逐一ベンチでノートに書き込んでいた。この“スペンサーメモ”がまず、阪急の野球を変えた。特に長池徳二(長池徳士)、高井保弘、大熊忠義らスペンサーと同じ右打者が、影響を受けた。中でも一番影響を受けたのは、長池だったのではないか。相手投手のクセを、ほとんどつかんでいた。長池は私と同じく、不器用なタイプ。日ごろ観察していないセ・リーグの投手はなかなか打てず、“大試合に弱い野村”同様、長池も日本シリーズではさっぱりだった(打率.213)〉

 後に通算代打本塁打27本の世界記録を樹立する高井は、1軍のベンチに入って、「スペンサーの姿に衝撃を受けた」としばしば語っている。「メジャーで活躍した打者が日本でもここまで研究してプレーするのか」と。高井自身、スペンサーを手本に研究ノートをつけ続け、それが代打での活躍につながった。現代にも生きる「考える野球」「データ野球」の源流もスペンサーにあった。

小林信也(こばやし・のぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2023年10月26日号掲載

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