伝説のストリッパー「一条さゆり」の生き方 “反権力の象徴”と呼ばれた異例の裁判闘争と釜ヶ崎での寂しき晩年

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荒れた生活の後に…

 刑期を終えて出所したとき、一条はすでに「過去の人」になっていた。当局の眼が心配なのか、彼女を舞台に上げる劇場はなく、マスコミも文化人も話題にしなくなった。酒におぼれる日々。飲んだくれて客とケンカをする荒れた生活が続いた。

 あれこれあったが、大阪に落ち着く。「過去を捨てて生きていけそうな街」と思ったのだろうか。だが、酔って歩いて交通事故に遭う。釜ヶ崎の酒場で働いていた1988年には、交際していた男性がいきなり入ってきてカウンターにガソリンをまき、火をつけた。一条は大やけどをしたが、間違えば焼死していたかもしれない。これは事件として各紙社会面を賑わせた。

 生活保護を受けながら3畳一間での暮らし。養ってくれる家族もなく、ついに1997年8月、肝硬変のため死去。葬儀には労働者ら約100人が参列したという。

 それにしても、ストリップとは一体何なのだろうか。

「私は、裸を超える裸、裸だけでない何かを伝えたいと思っています」

 と、語るのは、現役ダンサーの牧瀬茜(46)である。踊っていると、何かが天井から降りてきて、自分の体の中に入ってくるのを感じるときがあるという。

「一種の憑依というのでしょうか。神がかり的な力を感じます。自分ではない何かが自分を動かしているのです」

 一条の躍りも、まさに憑依という表現がピッタリだった。

 神話に登場する女神アメノウズメノミコト(天宇受売命)を思い出す。天の岩戸に隠れてしまったアマテラスオオミカミ(天照大神)を誘い出そうと衣服を広げて裸を見せたという話だ。踊ることで闇夜は明け、世界に光がさしたと伝わる。とびきり無頼のエネルギーを、本来、ストリップは持っていたに違いない。

 だが衰退は著しい。40年近く前は全国に約150館あった劇場も、現在では20館ほどしかない。

 次回はフォークシンガーの高田渡(1949~2005)。普通の風景に、普通の人々……。寄り添うように、しかし、べったりとではなく、生活者の視点で淡々と歌った。飲んで歌ってふらりふらり。56歳で突然旅立ってから来年で19年になる。

小泉信一(こいずみ・しんいち)
朝日新聞編集委員。1961年、神奈川県川崎市生まれ。新聞記者歴35年。一度も管理職に就かず現場を貫いた全国紙唯一の「大衆文化担当」記者。東京社会部の遊軍記者として活躍後は、編集委員として数々の連載やコラムを担当。『寅さんの伝言』(講談社)、『裏昭和史探検』(朝日新聞出版)、『絶滅危惧種記者 群馬を書く』(コトノハ)など著書も多い。

デイリー新潮編集部

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