「藤井八冠がAIに勝てる確率は1%未満」「28手先を読んでソフトを上回る瞬間も」 AI将棋ソフト開発者が語る
本人も「AIの方が強い」
衝撃の数字ではあるが、藤井もまた、21年に出版されたノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥氏との共著『挑戦』(講談社)で、
〈じゃあ、将棋や囲碁で人間はもう絶対にAIに勝てない。あくまでも「人間がAIから学ぶ」みたいな段階になっているわけですね〉
そう山中氏から問われ、
〈囲碁や将棋といった空間が限られた世界のボードゲームでは、競争という点では完全にAIのほうが強くなっています。だからこれからはコンピュータを活用することで、逆に人間がどんどん強くなっていくという段階に入っていく気がします〉
などと答えていたのだ。
AIが6億通り読んで
とはいえ、藤井がAIを上回る時も見受けられるという。先の杉村氏は、
「野球に例えると将棋AIは、絶対に凡退せず二塁打以上を打つバッターです。もちろん全打席本塁打ではないので、一手だけの局面を見てAIが二塁打止まりだった時、藤井さんのような強い棋士が本塁打を放つのが、いわゆる『AI超え』です。このAIを超える一手を発見することが、藤井さんは他の棋士よりも多いのです」
例えば20年6月、渡辺明棋聖(当時)に挑んだ対局で、藤井が勝利を引き寄せた一手が挙げられるという。
「藤井さんは『3一銀』を指したのですが、この局面で可能な指し手を水匠に4億通りまで読ませても『3一銀』は候補に挙がらず、6億通りまで読ませて“最善手”として現れたのです」
これは6億手先まで読んだという意味ではなく、28手先までの計算だといい、
「AIが27手先まで読んでも出てこず、次を読んだら最善手。『3一銀』はそんな一手だったのです。AIは手を網羅的に調べますが、ピンポイントに良い手だけを読む藤井さんのほうが、上回る時があるといえます」
[2/3ページ]