わずか“300人”で全国の薬物犯罪を捜査する「マトリ」…“元部長”が明かす「どんな人がマトリになるのか?」

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「国立大教授」を緊急逮捕

 若者を中心に大麻の乱用が取り沙汰されるここ最近、“麻薬取締部”の名を耳にする機会も増えている。10月22日には九州厚生局麻薬取締部が、福岡県の国立大学教授を“覚醒剤使用”の容疑で緊急逮捕。また、今夏には各地の麻薬取締部が連携し、「大麻リキッド」を販売した疑いが持たれる全国20数店舗に一斉捜索をかけるなど、多様化する薬物犯罪を前に“多忙”な様子が窺える。

 だが、麻薬取締部で捜査に従事する麻薬取締官(通称:マトリ)の存在は、職務の性質上、長らく謎のベールに包まれてきた。そんな知られざる捜査機関の実像を知る人物が、『マトリ ―厚労省麻薬取締官―』(新潮新書)などの著作がある瀬戸晴海氏だ。

 瀬戸氏はマトリとして約40年に及ぶ捜査人生を歩んだ元麻薬取締部長。マトリの活躍を描いたweb漫画『蜜を追う』(作・肥谷圭介)の監修も担当している。

 果たして、「マトリ」とは何者なのか――。瀬戸氏の著作からその一端を読み解いていく。

(以下、瀬戸晴海著『マトリ』【第1章 「マトリ」とは何者か】をもとに再構成したものです。また、記事中で触れているのは本作が刊行された時点の情報です)

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所管官庁は警察庁ではなく「厚生労働省」

 読者のなかにも麻薬取締部という名称を耳にされたことのある方は少なくないはずだ。とはいえ、麻薬取締部がどのような組織なのか、その実態については知られていないと思う。

 麻薬取締部、正式名称「厚生労働省地方厚生局麻薬取締部」は、麻薬等薬物の取締り(ここで言う「取締り」とは、捜査・行政の両方を含む)に特化した組織である。

 ハリウッド映画にも度々登場する米国の麻薬取締局=DEA(Drug Enforcement Administration)をご存じだろうか。映画「レオン」でジャン・レノ演じる殺し屋の主人公と敵対するのは、DEA捜査官役のゲイリー・オールドマンだ。また、アカデミー賞4部門を制覇した「トラフィック」にも、重要な役割でDEA捜査官が登場する。規模や権限、また活動のフィールドは全く比較にならないが、DEAの日本版が麻薬取締部と理解して頂ければいい。事実、私も短期間ではあるが、アメリカ国防総省の向かい側に位置するDEA本部や、米軍クアンティコ海兵隊基地に設けられたDEAの訓練施設「アカデミー」で学んだ経験がある。

 日本における麻薬取締部は、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・高松・福岡の8ヵ所に所在。さらに、沖縄(那覇)に支所を、横浜・神戸・小倉に分室を置いている。

 そこで任務に従事するのが麻薬取締官である。麻薬取締官は「麻薬捜査官」と「麻薬行政官」という二つの顔をもった「麻薬等薬物取締りの専門家」だ。巷では「麻薬Gメン」「マトリ」と呼ばれ、各麻薬取締部に配属されている。

 一般に、犯罪捜査を担う組織として真っ先に思い浮かぶのは「警察」であろう。だが、前述の通り、麻薬取締部の所管官庁は、警察庁ではなく厚生労働省である。

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