イスラエル軍 ガザ侵攻開始で先陣を切る“世界最凶のブルドーザー”「D9R」の恐るべき実力とは
ブルドーザーの威力
キャタピラ社がD9を発売したのは1954年。イスラエル軍はすぐにその価値に気づいて採用した。ただし、この頃はただの軍用のブルドーザーとして使われていた。要塞や軍用道路の建設、爆発物除去などが主な任務だった。
「そもそもブルドーザーは頑丈です。今も世界各地で地雷の除去作業が行われ、日本製の重機も活躍しています。地雷処理用に改造されたブルドーザーは、地雷処理作業中に対戦車地雷が爆発しても破壊されません。イスラエル軍はブルドーザーの潜在能力に気づいたのでしょう。80年代後半にD9の防御力を高めることを決めます。一部を装甲で強化したほか、ブルドーザーにおける最大の弱点である運転席を守るため、防弾ガラスなどを採用したのです」(同・軍事ジャーナリスト)
D9の威力が証明されたのは2000年から始まった第2次インティファーダ。武装パレスチナ人の自動小銃はもちろん、100キログラムを超える爆弾の衝撃にも耐えた。
「D9は高い攻撃能力も示しました。通常の土木作業ではブルドーザーの前面に設置された『ブレード』と呼ばれる大きな板を使って土を押し出します。イスラエル軍のD9は武装パレスチナ人による銃撃を余裕で耐えながら前進し、ブレードを使って敵のアジトを潰したのです。それまで武装パレスチナ人は民間の住居に立て籠もってイスラエル軍に攻撃する戦術を採っていたのですが、D9が住居を壊す作戦を開始すると投降者が続出したそうです」(同・軍事ジャーナリスト)
戦車を使わない理由
第2次インティファーダと並行し、イスラエル軍はD9Rの開発に着手した。対戦車ロケットや対戦車ミサイルによる攻撃を防ぐため新世代の装甲を採用。さらに、運転席の周りに「スラットアーマー」を設置した。
「スラットアーマーは一見すると柵のように見えます。これは特に『RPG』という対戦車ロケット弾の防御に効果を発揮します。RPGはロシア製で安価なため、ゲリラやテロリストでも手に入れられます。RPGの弾は成形炸薬弾と呼ばれ、命中すると弾頭から高速のジェット噴流が一点に集中し、装甲板を焼き切ります。戦闘員が運転席を狙ってRPGを発射すると、弾はスラットアーマーに当たって爆発します。ところがスラットアーマーはジェット噴流の一点集中を散らしてしまうので、爆発が起きても運転席にダメージはありません」(同・軍事ジャーナリスト)
D9Rが高性能の軍用ブルドーザーであることは明らかだが、軍事作戦の先頭にブルドーザーが使われるというのはやはり意外な印象を受ける。
イスラエル軍には「メルカバ」という自慢の国産戦車がある。人口の少ないイスラエルが兵士の生命を守るため、防御力を重視していることで有名だ。
軍はガザ地区の近くにメルカバを集結させている。だが本格的な地上侵攻が始まると、ガザ地区にはメルカバよりD9Rを優先的に投入する可能性があるという。
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