谷村新司さんと財津一郎さんの奇縁 いま改めて注目される映画「連合艦隊」と主題歌「群青」

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二人の逝去で改めて注目される映画

 巨星、墜つ――谷村新司さん(享年74)逝去の余波は続いている。ネット上では一報が伝えられた10月17日以降、アリスとソロを含め谷村さんの残した楽曲の中で何が一番好きか……という話題が尽きることはなかった。ところで、その週末、谷村さん作詞・作曲のある曲への関心が一気に高まっていたのをご存じだろうか。

 谷村さんと同じ週に伝えられた財津一郎さん(同89)の訃報では、代表作としてバラエティー番組「てなもんや三度笠」や「タケモトピアノ」のCMなどが紹介されていたが、実は谷村さんとはある映画を通じて縁があった。その映画の主題歌が改めて注目されているのである。

「連合艦隊」――1981年8月8日公開(東宝製作)で、同年の邦画配給収入第1位(約19億円)となった超大作である。谷村さんは初めて映画の主題歌を担当し、主題歌「群青」を歌った。そして財津さんは、海軍予備役の下士官役で出演。劇中で財津さんの息子を演じたのは、この作品が俳優デビューとなった中井貴一(当時はまだ大学生)だった。

「 この映画を話題にしていたのは主に50代超の人だと思いますが、お二人の訃報が同時に届いたタイミングで思い出したのでしょう。戦艦大和の乗組員として非業の死を遂げる財津さん、そして、大和が撃沈される様子をゼロ戦から見守る中井さんのナレーションとバックに流れる『群青』は、確かに感動的なラストシーンでしたね」(ベテラン映画記者)

 当時の宣伝資料によると、「連合艦隊」の企画は公開の6年前から進んでいた。製作費は破格の10億円。オールスターキャストに加え、前述の通り「佐田啓二の愛息・中井貴一がデビュー」ということで話題となった。さらに、谷村さんが初めて映画音楽に関わり、9000万円を投じて石川島播磨重工業(現・IHI)が建造した全長13メートルの戦艦大和がスクリーンに登場、壮絶な戦闘シーンを展開した。

「山本五十六を演じた小林桂樹さんはじめ、丹波哲郎さん、金子信雄さん、三橋達也さん、神山繁さん、高橋幸治さん、長門裕之さんに鶴田浩二さんといった重量級のスターが、実在した日本海軍の軍人を演じました。また、当時の最新技術で戦闘シーンを再現。開戦から昭和20年4月の沖縄特攻作戦で大和が撃沈されるまでを描いていることもあり、ポスターは戦艦大和をメインにしています。ですがこの映画は、それまでよく見られた著名な軍人の視点から戦争を描写した映画ではなく、あの時代を生きたごく普通の家族の姿を通して、戦争によって狂わされる人生や夢を描いているのです」(同)

 その意味で、本作品の真の主人公といえるのは、財津さんらが演じる「小田切家」と森繁久彌さんらが演じる「本郷家」になるという。そして谷村さんの歌う「群青」は、戦争によって親が子供に先立たれる哀悼を見事に歌い上げているのだ。

財津さんの熱演

 物語は昭和15年から始まる。考古学者の本郷直樹(森繁)は、次男の真二(金田賢一)が三高(旧制第三高等学校)に合格。自分と同じ学者の道に進むことを喜んでいた。長男の英一(永島敏行)には陽子(古手川祐子)という婚約者がおり、直樹の思いに反し、海軍兵学校を卒業して中尉に昇進していた。やがて戦局の悪化に伴い、真二も勉学を諦め、海軍に徴兵される。

 一方、海軍予備役で大工の小田切武市(財津)は、一人息子の正人(中井)が海軍兵学校に合格。18年間も海軍に奉職したものの下士官で予備役となった自分と違い、正人の将来は約束されたと信じて疑わなかった。しかし、武市も召集され、兵学校を首席で卒業した正人はゼロ戦の搭乗員になる。

「本郷英一はレイテ沖海戦で戦死しますが、真二に陽子を頼むとの手紙を残します。そして真二は、戦艦大和の乗務員となり、沖縄の特攻作戦へ。一方の小田切家ですが、正人が特攻隊を志願していたことを知り、海軍での順調な出世を望んでいた武市はショックを受けます。その武市が正人に思いをぶつけるシーンはたまりません」(同)

「このアホが、親よりも先に死ぬバカがどこにおるんじゃ」

 苦渋の表情で正人を諭す武市。だが、日本を戦場にしないため、そして残された家族のために戦うという正人の決意は揺るがない。

「わしはなんちゅうアホな親じゃ。下士官あがりのひがみ根性が、せがれの命を縮めてもうた……」

 海軍で出世さえすれば――その一心で正人を兵学校へ行かせた自分の浅薄さを知ると同時に、戦争の悲惨さが伝わってくる名場面である。そして武市は、戦艦大和の工作科分隊士として真二と共に沖縄へ……。

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