ライブシーンの歌唱、パフォーマンスに本気を感じる「パリピ孔明」 口パクだらけの日本の音楽業界に一石を投じる良作

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 昔のドラマを観ると感じることがある。今はドラマ全体が薄化粧になったなと。ドーラン濃いめの年輩俳優は逆に目立つよね。世の中全体が薄化粧なのかもしれないが、たまに濃厚メークが懐かしくなる。ということで「めっちゃノーズシャドウ濃いわぁ!」と一瞬ときめいたというか、ザワついたのが「パリピ孔明」だ。

 諸葛孔明が現代にタイムスリップ、くすぶっている現代人を見事な戦略で救うっつう物語。孔明を演じるのは向井理。超巨大な帽子(綸巾〈かんきん〉というらしい)で小顔&長身がさらに強調され、浮世離れする感じ、適役ね。感情を揺さぶられたり、思案を巡らせるときに帽子から煙が出るってのも笑える。独特の衣装に濃いめのメーク、環境適応力と学習能力が高く、すんなり令和に溶けこむ姿が妙におかしい。

 そして、時折登場する劉備役のおディーン・フジオカが幻想的な異国情緒パートを担う。一瞬「BSイレブン?」と思うほど(BSイレブンは中国ドラマをほぼ毎日積極的に放送中)。

 基本このふたりが『三国志』臭を醸し出すわけだが、私自身は三国志にまったく触れず・かすりもせずに50年生きてきたので、なんだか楽しいわけよ。ことわざはうっすらわかる程度で、こんなに興味のない人間に関心の種を植え付けてくれてありがとう。死ぬまでに『三国志』と『大菩薩峠』は読もうとゆるく決意してみた。

 三国志はさておき。舞台は令和のクラブミュージック業界。上白石萌歌が演じるアマチュア歌手の英子は、小さなライブハウスでバイトしながらステージに立つ。タイムスリップした孔明をうっかり拾っちゃって、三国志好きのオーナー(動物柄のスーツがやかましいが超似合う森山未來)とともに、聡明な孔明の策に頼ってプロシンガーへの道を目指す。萌歌は歌も演技もうまいし適役だが、孔明がほれこむにしては吸引力が弱い。弱いからこそ今後の成長と躍進が観られるのかな。まだ本気出してないだけかな。

 何がいいって、クラブのシーンやライブシーンに説得力がある。パフォーマンスがカッコイイ人気シンガーだが、超絶ナルシストのミア西表(ステージ映えする菅原小春)といい、ハイトーンボイスのヒット曲を出したインディーズバンドのボーカル・RYO(歌が超絶うまい森崎ウィン)といい、世界の歌姫・マリア(高音と低音の切り替えが神業の女王蜂・アヴちゃん)といい、歌唱力とパフォーマンス力の高いキャスティングに制作陣の本気を感じたわけで。口パク&数の暴力的な団体芸が横行してきた日本の音楽業界に、ずーっと疑問を抱いてきた人たちが本物の音楽系ドラマを作ろうという意気込みすら感じるのよ。恵まれた環境でセルフプロデュースに長けたアーティスト(関口メンディー)やカリスマラッパー(ELLY)など、EXILE勢の起用も良質&本気の加速度を増しとる。今年は紅白も変わるだろうし。

 クラブ通いで夜遊びする人や、横並びにならず自分の感性で音を探す人のドラマは珍しく、新鮮でもある。パリピ感を愛でる秋だ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年10月26日号掲載

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