妻の反対を押し切ってベンチャー企業へ転職 43歳夫が1年後 彼女に放ったあり得ない一言
同僚だった絵理奈さん
就職も鉄道会社を狙ったがうまくいかず、都内の中堅メーカーに入社した。その会社で同期だったのが絵理奈さんだ。短大卒だったので2歳年下である。同期は3人しか入社しなかったので、たびたび飲みに行っていた。ところが2年後にひとり辞めてしまった。
「僕は工学科を出ているので技術職。絵理奈は事務職で、もうひとりの彼は高卒で工場勤務だった。同期といっても仕事が違うのですが、彼はよく仕事の不満を口にしていました。工場勤務は時間的にも体力的にも大変だったんでしょう。でもあのままがんばれば、僕らの1期下が今、工場でかなりいい地位にいるんですけどね」
なんとなく、大卒でない彼を憐れむような、少しだけ蔑むような口ぶりが気になったが、彼はためらいなく、絵理奈さんとの関係を話し始めた。
「絵理奈とは単なる同期としてのつきあいが長かったんです。5年くらいかなあ。あるとき、他の同僚とともに数人で飲みに行ったら、彼女が『そろそろ会社辞めようかと思ってる』という話をして……。辞めてどうするのと聞くと、『この先のことを考える』と。何かあてがあるわけでもないというので、『辞めても暮らしていけるのか、いいなあ』と言ってしまったんです。そのころ僕は、ほとんど家族とも連絡をとっていなかったし、本音としては仕事もおもしろくなかったし、気持ちが荒んでいたんしょうね。だから彼女にそんな言い方をしてしまった。彼女は僕をにらみつけていました。その顔がとてもきれいだったから、妙に気になったんです」
「ずっとデートし続けるのもめんどうになったので」
怒った顔がきれいだったと思ったのは、おそらく彼女が気持ちを正直に表したからだろう。そんな彼女の「素の顔」をもっと見たいと思ったのかもしれない。彼は彼女を誘って食事に行き、交際を申し込んだ。
「絵理奈は『あなたは私のことが嫌いなんだと思ってた』と。嫌いなわけない、好きなんだと言いながら、自分でも本当かなと思っていました。僕、あまり恋愛経験がなかったし、恋愛感情をもつことも少なかったから、どう進めていいかわからなかったんですよ。とりあえずデートをして、ひとり暮らしの自分の部屋にも招いて。正直言って、ずっとデートし続けるのもめんどうになったので、結婚しようと言いました」
なんだそれ、と思わずつぶやいてしまった。デートがめんどうだから結婚というのは飛躍が過ぎないだろうか。当時、彼は28歳になろうとしていた。大学時代の友人も、そろそろ結婚しはじめている。自分も結婚してしまえば、恋愛だのデートだのと浮かれたことを考えずにすむと思っていたそうだ。
「家庭について具体的な青写真があったわけでもないし、本当に結婚したかったのかどうかもわからない。でもひとり暮らしにも飽きたし、生活を変えるには結婚もいいかなと思ったんですよ、当時はね。そんなに人生深く考えていなかったということでしょうね」
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