日曜劇場「下剋上球児」 競技人口が減っている高校野球をあえてテーマにした理由とは

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少人数チームを応援したくなる日本人の心理

 南雲は野球が嫌いというわけではない。それどころか無性に好きだ。だから監督就任前に立ち会った草野球チームとの練習試合では思わずサインを出す。指示も告げた。エラーをいくつも出した後の攻撃前だった。

「全部を打たなくていいんだよ。自分の得意なところだけ狙おう。エラー、全部なかったことにしよう」(南雲)

 野球に興味がない人でも優れた助言であることが分かったはず。特にエラーについてだ。叱らず、忘れさせた。悪いイメージを引きずると、何一ついいことがないからだ。

 部員数が少ないところがいい。1人でも倒れたら、大きな痛手となるが、その分、仲間を思いやる。テレビ朝日の異色野球アニメ「アパッチ野球軍」(1971年)や大ヒット漫画「我ら九人の甲子園」(1980年)を思い出す。

 また、判官贔屓の日本人は少人数チームを自然と応援したくなる。1974年、春の甲子園に部員数11人の池田高(徳島県)が初出場し、準優勝をもぎ取ると、日本中が熱狂に包まれた。

憎らしいくらいに演技がうまい鈴木亮平

 鈴木の演技には全く危なげがない。憎らしいくらいにうまい。正義感の強い救命救急医(TBS「TOKYO MER~走る緊急救命室~」2022年)、野心家のテレビ記者(フジテレビ系、制作・関西テレビ「エルピス-希望、あるいは災い-」2021年)など、何を演じても役を自分のものにする。

 心から高校野球を愛する山住役の黒木もいい。もともと2014年の映画「小さいおうち」(監督・山田洋次)で同年のベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀女優賞)を得た名優だが、その後は役に恵まれない時期があった。黒木の演技が良くても脚本や演出が悪く、駄作になってしまった。日本テレビのドラマ「ブラッシュアップライフ」(2023年1月)での森山玲奈役あたりから本領を発揮している。

 屋外でのロケをふんだんに採り入れた映像もいい。また、練習試合の部分は極端なローアングルなど通常の野球中継では絶対に使われない撮り方が用いられ、迫力があった。随所で使われたアニメーションも効果的だった。

 南雲の妻・美香もワケありらしく、男からの電話で東京に戻るように促されていた。美香は「家族に迷惑はかけられない」と断るが、男はしつこそうだ。

 高校野球と同じく、何が起こるか分からないドラマになるのだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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