日曜劇場「下剋上球児」 競技人口が減っている高校野球をあえてテーマにした理由とは
勝利至上主義かフェアープレイか
批判されようが勝ちに徹するのか、敗れ去ることになろうが潔さに拘るか。それは正しいとか、間違いとかの話ではなく、選択の問題だ。高校野球に限らず、それぞれの生き方においても勝利か潔さかは問われる。南雲の場合、おそらく試合でも生き方でも潔さを貫くはずだ。
南雲は高校卒業後、野球特待生で大学に進むが、ここでも苦い経験をする。1年生の時にアキレス腱を切ってしまった。
「野球も大学も辞めた」(南雲)
今度は妻・美香(井川遥・47)の連れ子である青空(番家天嵩・10)に向かって淡々と語ったが、人生設計が土台から狂ったのだから、相当辛かっただろう。
古くから多くの大学にある体育会系特待生の暗部だ。集団競技であろうが、個人競技だろうが、大学はケガをした学生を容赦なく斬り捨てる。学生のその後の人生などまず考えない。
ドラマ側がこの設定をあえて選んだのは、観る側に学生スポーツ界の現状の是非を問いたかったからではないか。
南雲はなぜ野球から逃げようとするのか
大学中退後の南雲はスポーツトレーナーになったものの、教壇に立つ夢が捨てられず、32歳で再び大学に入り、36歳で教師になる。それから3年。野球部長の山住が突き止めるまで、野球をやっていた過去を隠し続けた。高校で不本意なプレーを強いられ、大学では部を追われたためか。
いや、ほかにも深刻な理由がありそうだ。山住や前監督・横田宗典(生瀬勝久・63)らに懇願されたため、1シーズン限りの約束で監督を引き受けたが、今年度限りで教職を辞するつもりだからである。
教師を続けている限り、野球から逃れられないと思い、辞めようとしているのだろう。今は同じ三重の星葉高の監督になっている賀門に辞職の意思を打ち明けた。
「まだ家族にも話していませんが、今年度で教師を辞めようと思います。やろうと思ったところから、間違えていた気がします」(南雲)
それほど野球から逃げようとするのはどうしてか。誰かの野球人生を奪ってしまったのか。静岡第一高の仲間たちとの連絡を断っているところにヒントがありそうだ。
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