日曜劇場「下剋上球児」 競技人口が減っている高校野球をあえてテーマにした理由とは
TBSの連続ドラマ「日曜劇場 下剋上球児」(日曜午後9時)が2話を迎える。ストーリーが奥深く、主演の鈴木亮平(40)とヒロイン的存在の黒木華(33)がいつもながらのレベルの高い演技を見せている。最終的には日本テレビ「コタツがない家」(水曜午後10時)などと秋ドラマ・ナンバー1の座を争いそうだ。
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野球人気低迷の中であえてドラマ化
ここ約30年で野球人気はガタ落ちした。日本テレビは1991年に62試合の巨人戦ナイターを中継したが、視聴率が獲れなくなったため今年は僅か3試合。高校野球の部員も、同年の約15万人から今年は12万8000人に減っている。
それでもヒットメーカーとして名高い新井順子プロデューサーと塚原あゆ子監督は、新作ドラマに「下剋上球児」を選んだ。無名の高校野球部が、廃部寸前から甲子園を目指すストーリーである。2人は高校野球がドラマの題材に適していると踏んだのだ。
確かに高校野球はドラマに向いている。その理由の1つは監督を中心としたストーリーをつくりやすいからだ。高校サッカーや高校バスケットなどより、監督の力量がチーム力を左右するためである。また、監督が主人公ならキャリアのある俳優を起用できる。
実際の高校球界にも、明徳義塾高の馬淵史郎監督(67)や大阪桐蔭高の西谷浩一監督(54)、仙台育英高の須江航監督(40)らスター選手並みに注目される指導者が数多い。「高校野球は監督のもの」という人すらいる。
高校球児も主人公に成り得るが、演じるのが若手俳優になってしまうため、どうしても演技面が弱くなる。また、主人公が若いと、その人生模様を興味深いものにするのが難しい。一方、監督が主人公なら、生き様を濃厚に出来る。
過去を抱えている監督・南雲脩司
「下剋上球児」の主人公は三重県立越山高の監督・南雲脩司だ。鈴木亮平が演じている。社会科地理・歴史を担当する教諭でもあり、過去を抱えている。このドラマの中心となるのは、弱小野球部の成長と南雲という男の再生なのだろう。
南雲は高校時代、静岡県の静岡一高で野球部主将を務め、夏の甲子園の県予選で準優勝した。決勝で敗れたのは賀門英助監督(松平健・69)の采配を拒み、自分たちがやりたかったプレーをしたせいでもある。
賀門は勝利至上主義だった。準決勝まで、注目打者は全て敬遠した。ただし、プロ野球ファンと違い、高校野球ファンは清廉さも求めるから、タダでは済まなかった。猛批判を浴びた。
南雲は野球部部長で家庭科教諭の山住香南子(黒木華)に向かって、こう振り返った。
「朝から晩まで家とか学校に電話が来るんです」(南雲)。
相手は南雲を卑怯、姑息などと詰った。傷ついただろう。
1992年の夏の甲子園2回戦を思い起こさせた。星陵高(石川)の強打者だった松井秀喜(49)に対し、明徳義塾高が5打席連続で敬遠した件である。世間は猛反発するが、同高の馬淵監督は「潔さに喜ぶのは客と相手側だけ」と怯まなかった。
あれから31年。馬淵監督は9月に高校日本代表を率いて、U18(18歳以下)ワールドカップを制した。日本の世界一は初めてだった。一方、松井への連続敬遠が正しかったのかどうかは当時も今も誰にも決められないだろう。
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