「頑張ってください」はNG…「四国遍路」への誤解、そのせいで起きているトラブルの数々を反骨の言語学者“F爺”が解説
四国遍路は世界でも稀な「正しい意味での巡礼」
「巡礼」という言葉は、回教徒(=イスラーム教徒)のメッカ詣でやカトリック教徒のサンティアゴ・デ・コンポステラ歩き詣でに関して用いた場合は、誤訳であり、当然、誤用でもある。一箇所だけの聖地に詣でるだけで、「巡る」ことをしないのだから。
これに対して、四国八十八箇所を歩いて巡って詣でる「お遍路さん」たちは、正しい意味で「巡礼」だ。日本の風土で自然発生的に成立し、何百年も続いている世界的にも珍しい風習である。
(この項に関しては、記事の末尾の「注釈」をご覧いただきたい)
遍路道を歩く外国人
近年、四国の遍路道に外国人観光客が多数やって来るようになったと聞いている。F爺に一時帰国の出来る唯一の期間である真夏には少ないが、台湾人、フランス人、ドイツ人、イタリア人、カナダ人、オーストラリア人などには遭遇したことがある。
F爺が言葉を交わした人達に限って言うと、外国人に「お遍路さん」は一人もいなかった。大多数は、弘法大師の名前も知らず、単に歩き旅を楽しんでいる「トレッカー」。ごく一部が「日本文化研究者」。白装束や菅笠を身に着けていてもコスプレに過ぎず、朱印集めはスタンプ・ラリー……というのが実情だった。
そして、大多数は、日本語が片言さえも話せない。習う気も無い。なかには、英語さえも覚束ないのもいる。
近頃の遍路道には、「ゲストハウス」というカタカナ名前でそんな外国人を宿泊させる格安の施設があちこちにある。既存の民宿や旅館の中には、競合に破れて廃業に追い込まれた所もあると聞く。
そんな外国人を「お遍路さん」と見做して「お接待」をする人がいる。頼まれれば宿の予約も引き受ける人がいる。
F爺は、見も知らぬ人の宿の代理予約は絶対に受け付けない。無断キャンセルの場合に責任を取らされる破目になるから。
言葉の通じない国で、観光コースを外れて、無舗装の山道を含むルートで歩き旅を企てるのは、無謀そのもの。そんな人が遍路道に迷い込んで来るのが間違っている。
【イスラームのメッカ詣でとカトリック教の多数ある聖地の一つへの歩き詣でについての注釈】
イスラームの聖地詣で
イスラームでは、資力(と体力)のある者に限って、メッカ詣でをすることが宗教上の義務の一つである。
昔々は、「駱駝に乗る大金持ちとその傍を歩くお供の一群」が、盗賊に襲われた場合に自衛できるような武器を携えて、行なうものだった。
現代では、歩く人はいない。飛行機や観光バスに乗って行き、ガイドの案内に従って所作を行なうお祭り行事になっている。完全に観光化しているのだ。
「重要なのは、然るべき期日に現地に赴いて然るべき所作をすること」
なのだから、四国遍路のような「何十日も掛けて遠路を歩く行」とは完全に別物だ。
メッカ詣でのついでにメディナにも立ち寄るツアーもあるが、そちらは宗教上の義務ではない。
なお、回教徒でない人のメッカ入域は厳禁である。
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