「頑張ってください」はNG…「四国遍路」への誤解、そのせいで起きているトラブルの数々を反骨の言語学者“F爺”が解説

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F爺が缶コーヒーお接待などを断る理由

 F爺には、コーヒーはご法度。謂わゆる「ドクター・ストップ」なのだ。カフェイン過敏症のせいで、一滴の十分の一でも呑み込んでしまうと、その夜は一睡も出来なくなってしまう。カフェイン入りの「栄養ドリンク」なるものも固く断わる。これまでのところ、そのせいで逆恨みされたことは無い……と思いたい。

食べ物以外の物品のお接待

 お守りや小型のお地蔵さんの類(たぐい)は、その種の信心の無い者にとっては、持ち運んだら嵩張(かさば)って重いだけ。早朝から夕刻まで歩き続けるため「荷物を紙一枚でも減らしたい」歩き遍路にとって、迷惑でしかない。

 それに、どこの神社ともお寺とも無関係に個人が作った自称「お守り」に何の価値があり得るのか、F爺には理解できない。

 しかし、それを喜ぶお遍路さんもいる。お遍路経験者一人一人に、それなりの価値観があるのだろう。

重過ぎる物のお接待

 F爺は、大きな西瓜(すいか)を丸ごとお接待されて重くて重くて泣きそうになったことがある。やっとの思いで辿り着いた宿で、宿泊客と宿の人全員で分けて食べてもらった。

 重い物のお接待は、親切などではない。苛めだ。二度と受け付けないことにしている。

迷惑お接待を事前に避ける方法

 迷惑お接待を事前に避ける一番楽で有効な方法は、F爺のように、白衣を着ず、菅笠を被らず、杖を突かないこと。必要な場合は、臆面も無く、
「遍路じゃないんです」
と「方便」を活用することが出来る。まだ実行したことは無いが。

 それに、沿道の年配の人が異口同音に
「私たちが子供の頃のお遍路さんは、白装束ではなかった」
と証言する。

 江戸時代、明治時代、大正時代、昭和初期の遍路絵や写真を見ても、白装束の人はいない。

「遍路用の白装束」は、1953年に伊予鉄道が「観光バスによる札所巡りツアー」を始める少し前の創作衣装なのだ。

善意のつもりの「頑張ってください」は禁句にしてもらいたい

 お遍路さんと遇うと「頑張ってください」と言う人がいる。そんな標語もあちこちで見かける。それがしばしば、お遍路さんに譬(たと)えようも無く辛い思いをさせることに気付かない人が多いようだ。

 歩きお遍路さんの中には、驚くほどの高率で、人には言えない悩み苦しみを抱えている人がいる。抱え続け背負い続けた重荷に耐えきれず、何かに縋(すが)りたくなって、最後の頼みの綱として四国にやって来て遍路道に降り立つのだ。そんな人は、歩き始めたその日に既に心身ともに限界で「これ以上は頑張れない」状態であることが多い。

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