「頑張ってください」はNG…「四国遍路」への誤解、そのせいで起きているトラブルの数々を反骨の言語学者“F爺”が解説
さまざまな面
そうして少しずつ見えて来たのが、四国遍路にはさまざまな面があり、疑問に思うことや拒否せざるを得ないこと、さらには「暗闇」と形容したくなることさえもあるという事実である。
「お接待」の慣習
四国の遍路道には、「お遍路さんへのお接待」という風習が根付いている。沿道の人が飲み物や果物、お菓子などを振舞ってくれることもあり、遍路宿が無償で弁当やペットボトル入りのお茶を持たせてくれることもある。また、民宿や旅館の洗濯機の使用料が無料だったり、車での送迎を申し出てくれることもある。現金のお接待もある。
多くの人が「お接待は、断わってはいけない」と言う。各種の「遍路案内書」にもそう書いてある。その「教え」を忠実に守って実行するお遍路さんも多い。
ところが、お接待の中には、首を傾げてしまうものもある。断って当然の場合が少なくないのだ。
迷惑お接待「車お接待」
歩きお遍路さんを見掛けて自家用車に同乗を奨める人が時々いる。これは率直に言って、遍路というものを理解していない行為だ。お遍路は、観光旅行とは違う。札所から札所へと歩くことそのものが行(ぎょう)なのだ。
交通機関を利用することを当たり前と考えている「札所巡りさん」たちは、同乗を奨めてもらって大喜びするかもしれない。しかし、札所から札所へと歩き通すためにわざわざ四国にまでやって来た「誤魔化しをしない覚悟の歩き遍路」にとっては、行の邪魔をされることだ。迷惑以外の何物でもない。
F爺は、通し打ちを目指している時は車お接待を必ず断わる。「歩くことを行としておりますので、お気持ちだけ戴きます」と言えば、普通は理解してもらえる。
そんなF爺も、一度だけ車お接待を受けたことがある。通し打ちをするだけの日数は無いと初めから判っていた年のことだ。お接待をしてくださった方も、「『歩きのお遍路さんに便乗を奨めても普通は断られる』って聞きました。却(かえ)ってご迷惑らしいんですね」と言っていた。
尋常ではない豪雨の日だった。傘を差しても無駄で、濡れて歩いていたのを見るに見かねてのお接待だったのだ。
飲食物のお接待
遍路道で飴玉やお菓子などをお接待する人がいる。F爺は、自分で食べようとは思わないが、少量であれば、後で他のお遍路さんに「お接待送り」をするという手があるから、道端でのお接待は、断わりはしない。
しかし、休憩所などで、その場で消費するべく渡されそうになると、
「甘い物を食べると体に良くないんです」
と言うことにしている。
真夏の遍路道では、缶入りや瓶入りの冷たい甘い飲料のお接待をする人もいる。これもF爺は、「甘い飲み物は、戴くわけに行かないんです」と言って固くお断わりする。
折角のお接待を断られた人は、
《この人、糖尿病なのかな》
と思うようだ。
無理に飲ませよう、食べさせようと、強要されたことは無い。誤解だが、いつもそのままにしておく。成分の分からない物を口に入れたくない本当の理由をその度(たび)に説明するのは面倒だから、「これは方便のうち」と割り切ることにしている。
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