「頑張ってください」はNG…「四国遍路」への誤解、そのせいで起きているトラブルの数々を反骨の言語学者“F爺”が解説
2021年7月、サッカー・フランス代表の選手2人が日本人を差別、侮蔑する動画が拡散された。“ひろゆき”こと西村博之氏は、彼らの発言は「差別ではない」と主張したが、それを“論破”したことで大きな注目を集めたのが言語学者の小島剛一氏だ。
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【写真9枚】お遍路を行う「意外すぎる有名人たち」有名政治家・芸能人も?
小島氏は「F爺・小島剛一のブログ」の筆者としても人気が高い。「F爺」とは「フランスに住む日本人の爺さん」という意味だ。専門はトルコ語の方言研究と、トルコ共和国の少数諸民族ザザ人やラズ人の言語研究。半世紀以上にわたってフランスで生活し、フランス語はネイティブと同じレベル。ひろゆき氏が論争を挑めるような相手ではなかったのだ。
ところが、このF爺、意外なことにお遍路の経験も豊富で、ブログでも多数の「遍路論」を掲載している。なぜ遍路に魅せられたのか、F爺が「暗闇」と表現する問題点やトラブルの数々……。F爺のコラム「四国遍路の想定外だった面」をお届けする。
四国遍路の想定外だった面
1968年以来、フランスの地方都市ストラスブールに住み着いているF爺には、日常的に「日本の地理と歴史だけでなく、宗教、文芸、音楽、美術、工芸、料理、政治情勢などに関しても幅広い知識があることを要求される」という特殊な立場がある。
ある日、フランス人に四国遍路のことを訊かれて、通り一遍の大まかな説明しかできないことを自覚した。次の夏の長期休暇を利用して四国の遍路道のかなりの部分を歩いてみたのが十年以上前のこと。
それ以来、コロナ禍で一時帰国の叶わなかった時期を除いて、毎年、四国に舞い戻っては、遍路道を歩くようになっている。その間に、渡し舟以外の交通機関を一切利用せず、徒歩に徹して八十八箇所の札所を一回の遍路行で巡って結願(けちがん)に至る「歩き遍路の通し打ち」も三回達成した。
歩き遍路とは?
現今、四国八十八箇所巡りをする人の大多数は、鉄道やバス、タクシー、ロープウェイなどを利用したり、自家用車またはレンタカーを自分で運転したり、観光バスによるツアーに参加したりする。自転車で札所巡りをする人もいる。
交通機関を利用せず、自転車やバイクにも乗らずに札所から札所への道を自分の足で歩き通す昔ながらの「お遍路さん」は、ごく少数なのが現状だ。
但し、「歩き通す」と言っても、1950年頃までのお遍路さんたちが渡し舟には乗っていたという歴史を踏まえて、浦戸(うらど)湾の入り口で無料の高知県営フェリーに乗せてもらうのは構わないことになっている。
本来「遍路は歩くもの」なのだが、「歩かない八十八箇所巡拝者」を「自家用車遍路」「電車バス遍路」「自転車遍路」「タクシー遍路」などと呼ぶ人が多いため、冗語ではあるが「歩き通すお遍路さん」を指す「歩き遍路」という言葉が成立している。
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