【竜王戦】藤井聡太が挑戦者・伊藤匠に2勝 八冠獲得後の初戦でも見せた「強い自制心」

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決意を語った伊藤

 伊藤は「あまり想定していない展開になった。攻め合うほうがよかった。自信がなかった」と自信がないままに戦っていたことを正直に吐露していた。そして「『4一金』からいい手順が見つからなかった」と打ち明けていた。郷田九段の評価通り、「4一金」は本局最高の巧手だったようだ。

 さて、愛知県瀬戸市出身の藤井は、地元ファンが駆けつける名古屋でのタイトル戦の成績は5勝3敗となぜか振るわないが、京都での対局は5戦全勝と相性がいい。また、竜王戦七番勝負では、この仁和寺の第2局を制した棋士がすべて勝っているという傾向もある。

 16日開かれたホテルオークラ京都での前夜祭で、伊藤は八冠を達成した藤井に「おめでとうございました」と祝福してから抱負を語った。それでも場慣れして応対が柔らかくなってきた藤井に比べ、伊藤はまだまだ硬さが取れない印象だった。前夜祭では仁和寺の瀬川大秀門跡が「仁和寺の創建は888年。藤井八冠の8と同じなんです」などと嬉しそうに話した。

 伊藤は何としても、師匠の宮田利男八段(70)の故郷である秋田県大仙市(旧・大曲市)での第6局に持ち込みたい。それには10月25、26日に控える福岡県北九州市での第3局に勝たなくては危なくなるどころか、ストレート負けの可能性も出てしまう。

「中盤で苦しくなる展開が続いているので、修正して第3局に臨みたい」と伊藤は静かに決意を見せた。かつて「小学生対決」で藤井を泣かせた男が猛反撃で、将棋界、今年最後の大イベントを盛り上げるか。
(一部敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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