「日本のお笑い」に苦手意識があったライター・野村麻里がドハマりしたきっかけは? 「お笑いに覚える不快感を無視してはいけない」

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攻撃的な物言い、年功序列に嫌気が

『香港風味』『ひとりで食べたい』など多くの著書で人気を博す、ライターであり編集者でもある野村麻里さん。長く日本のお笑いに苦手意識があったが、昨年とある番組を見てもう一度ハマってしまったという。「ソロキャン」がつないだ不思議な縁と、野村さんがお笑いの世界に見る怖さとは。

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 もう長いこと、サブスクで映画とドラマばかり見ていた私は今、毎日、地上波の番組を見ている。

 なぜか? 日本のお笑いにハマったのだ。

 2002年の春、母の病気を理由に香港から帰国した当時、私は、昼は病院へ行き、夜はテレビを見るという生活を送っていた。テレビを見ていると何も考えずにいられた。助かった。ちょうどワールドカップの時期で、興味のないサッカーを毎晩見た。ワールドカップが終わり、母が亡くなった後もテレビ生活はしばらく続き、よくお笑い番組を見ていた。

 しかしそのうちに、攻撃的な物言いや、芸人たちの強固な年功序列(年功序列には相互扶助の側面もあり、私はそのすべてが良くないと思っているわけではない。しかし、アンビバレンスな感情があるから余計、始終強調されると苦しくなってしまう)に嫌気がさし、お笑い番組だけでなく、地上波のテレビそのものを見なくなってしまった。

一気にハマったきっかけ

 6月に上梓した『ひとりで食べたい』をウェブで連載していた頃、ひとりでキャンプをする「ソロキャン」に興味を持ち、その火付け役というヒロシのテレビ番組やYouTubeの動画を見るようになった。思えばヒロシは私がテレビを見ていた頃、好きな芸人だった。彼には「焚火会」という、芸人のキャンプ仲間がいるのも知ったが、どの人も初めて見る顔だった。それぞれにキャラクターがあり、面白い人たちだと思ったが、かといって彼らのお笑いを見ようとはしなかった。

 そして、2022年12月18日。私はとある案件を抱え、大変憂鬱(ゆううつ)な気持ちで過ごしていた。こんな時はじたばたせず、家でおとなしくしているのがいい、そう思っていた時、そうだ、今日は確か、M-1グランプリという漫才のコンテストの日だ。焚火会の太ちゃん(ウエストランドの河本太。彼はヒロシにいつも太ちゃんと呼ばれていた)が出ると言っていた。見てみようか。

 果たして、M-1は面白かった。ウエストランド目当てに見て、優勝したから嬉しかった(それまで、どんな漫才なのか全く知らなかったが)し、それだけでなく、ほかの人たちもみんな面白く、一気に興味をそそられた。

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