芥川賞で注目の「読書バリアフリー」が障害のない人にも役に立つかもしれないワケ
クオリティーオブライフにかかわる
市川さんが訴えるように、読書のバリアフリー化が遅れたのはどうしてなのか。
「例えば、車いすに乗った人のために、段差をなくしたりスロープを付けたりするとか、ハード面でのバリアフリーは分かりやすいですよね。一方で、『読書はあくまで娯楽だから、障害のせいでできないということがあっても仕方ない』と考える人がいるかもしれません。ですが、読書をして日々の生活にかかわる話題を知ったり、新たな知識を学んだり、さらには仕事に必要な情報を得る場合もあります。もちろん、様々な文学作品に触れることは、人々の内面を豊かにします。読書ができるかどうかということは、クオリティーオブライフ(生活の質)にかかわってくる非常に重要なことだと思います」
障害が重い場合でも、読書はできるはずだと野口教授は言う。
「支援学校の教員の方ですら、重度や重複の障害があると読書は難しいだろうと考えている場合があります。ただ、それはステレオタイプなイメージで読書を考えているからです。たしかに寝たきりで覚醒水準が低い子どもは、1人で黙読することは難しいかもしれません。でも、ベッドサイドでその子の反応を見ながら歌や手遊びなどを添えつつ読み聞かせることで、その子なりに絵本などの作品を楽しむことができます。障害が重いから読書は無理だろうと考えるのではなく、この人の状態だったらどういう方法で読書が出来るかを考える視点が必要です」
黙読が苦手なだけかもしれない
野口教授によると、読書のバリアフリーは障害を持つ人のためのだけのものではないという。
「例えば高齢の人が、視力が落ちて小さな文字が読みづらくなっても、大活字本であれば読みやすいかもしれません。2021年度に全国の公立図書館を対象にした調査では、95%の図書館で大活字本を取り扱ったコーナーを設置していることが分かりました。ただ、よく図書館を使う人以外には、その存在が十分に認知されているとは言い難いのが現状だと思います」
野口教授のお薦めの1つがオーディオブックだ。2015年にはアマゾン傘下の「Audible(オーディブル)」がオーディオブックの聞き放題サービスを日本で開始した。読書が苦手な人は、オーディオブックを試してみるのもいいだろう。
「本を読むのが苦手だと感じている人の中には、黙読という読書スタイルが合っていないだけの人もいると思います。オーディオブックであればすんなり内容を理解できたり、物語を楽しめたりするという人もいるはずです。黙読が合わないからといって、読書自体から遠ざかってしまってしまっては勿体ないです。バリアフリーに対応した読書スタイルはそういった人の助けにもなります。近年、読書をしない人の割合(不読率)が高くなっているといわれていますが、読み方がフィットしていないだけだという人もいるはずです。障害の有無にかかわらず、自分に合った読書のスタイルや方法を見つけることが重要です」
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