「ブスの絶望と乙女心とプライド」を描く名作中の名作「マスクガール」 女優陣の怪演に喝采!

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 先日、行きつけの店で20代の韓国人留学生と話す機会があった。彼女がNetflixを観るというので、張り切って大好きな韓国ドラマの話をしたら、「怖いのが好きなんですね」とドン引きされた。名作中の名作だと思うのよ、「マスクガール」は。

 容姿差別が激しい韓国ならではの物語。ひとりの女性の悲しくも数奇な半生を描く……というか、ひとりじゃないのよ。そもそも主人公のキム・モミを演じたのは子役を含めて5人の俳優。そして主人公以外の登場人物の来し方も、数年~30数年にわたって簡潔に描きながら、ひとつの凄絶な復讐劇へと集約されていく。その流れのなんと見事なことか! 全7話と短めなので、週末一気見に最適だよ。

 モミは人前で歌って踊るのが大好きな少女だった。が、成長するにつれ、自分がブスであることに気付く。母親は美人なのに自分はブス。同級生から面罵され、社会人になっても顔面で差別される。歌って踊って拍手喝采を浴びたいのに、許されない社会。そこでマスクを着け、露出度&サービス高めのライブ動画配信にハマる。スタイルがいいモミはマスクガールと名乗り、エロ目的の男どもから投げ銭と称賛の声を集めて(罵声はブロック)、承認欲求を満たしていた。

 ここまでは現代社会によくある、切なくもゆがんだ女心。演じたイ・ハンビョルが「ブスの絶望と乙女心とプライド」を好演(痛いほどよくわかる)。それがナルシストの不倫上司や興味本位のヤリ目男に踏みにじられたことを機に、殺人逃亡犯へと転がり落ちていく。

 実はモミがマスクガールと気付き、密かに好意を寄せていたのが同じ会社のチュ・オナム(見事にオタク男を演じたアン・ジェホン)。モミを救うつもりが逆に殺されてしまう。このオナムの母がもうひとりの主役だ。

 女手一つで育てた息子を殺された母の恨みは深い。普通のおばさんがPCを学び、スラングを覚え、全財産を投じて逃げたモミを執拗に追う。演じたのはヨム・ヘラン。彼女は「ザ・グローリー」では主人公を助けるおばさん役で活躍。コミカルな演技も秀逸だが、喜怒哀楽の迫真の演技にも引きこまれた。観る者の自律神経を乱し、呼吸と脈拍に影響を与える力がある。おえつにも鬼の形相にも感服。

 そのオナムの母がたどり着いたのは、整形して超絶美人になったキム・モミ(ナナ)の親友キム・チュネ(ハン・ジェイ)だ。彼女も整形美人で、男に蹂躙されてきた。女の連帯を見せた重要な人物でもある。苛烈な追跡劇の末、モミは逃亡に成功。なんと出産して、確執のあった母(ムン・スク)に娘を託し、自首。服役して十数年後、40代のキム・モミを演じたのがコ・ヒョンジョン。長期服役の疲弊と絶望、そして娘のミモを守るための不屈の魂と母性を静謐な演技で体現した。

 私の好物「女の連帯」「親子の確執」「女刑務所モノ」がガッチリ融合。女優陣の怪演と矜持に拍手喝采だ。逆に日本の女優を気の毒に思う。実力はあるのに。マスクガールのような発揮できる作品が少ないからねぇ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年10月19日号掲載

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