八冠達成の藤井聡太 「立会人が話しかけたのに…」感想戦終盤で見せた驚きの姿
感想戦では笑い声も
今年の叡王戦で藤井に挑戦した菅井竜也八段(31)らを育てた関西の名伯楽・井上慶太九段(59)は、この日、副立会人。「永瀬さんが見事な差し回しで勝ったと思ったら、土壇場の大逆転。控室で(立会人の)淡路(仁茂)さん(九段=73)とびっくりしました」と語っていた。
「歴史的失着」は、藤井に十数分遅れて永瀬が「魔の1分将棋」に入った直後に起きた。すぐに大ポカに気づいた永瀬は、頭を掻きむしったり、組んだ手で額を叩いたり、後悔に苦悶する様子がありありで気の毒なくらいだった。それでも大盤解説場では「終盤まで二転三転して、はっきりこちらが勝ちの局面があったと思うんですけど、逃してしまって残念。もう一局指したかったですが、ゼロからやり直したい」と気丈に挨拶し、仲の良い研究仲間である新王座との感想戦では笑い声も聞こえた。
勝った藤井は、会見で勝利を喜びながらも「苦しかったことが多く、まだまだ実力が足りない。永瀬さんの強さを感じた」などと話した。藤井は完勝に思える将棋の後でもいつもこうした発言をするが、今回は偽らざる心境だろう。将棋の内容を見れば、3、4局を永瀬が連取して、八冠を阻止した可能性が高かったのだ。
「長く活躍できれば」
藤井は八冠の達成感を問われると、「これを目標にしてきたわけでないので……うーん」と沈黙し、「これを糧にして今後も取り組んでいきたい」などと話した。会見で「史上最強とも言われますが」との質問が出た。大山康晴十五世名人(1923~1992)や羽生九段を念頭にしたのだろう。五冠独占の大山も、七冠独占の羽生も、藤井のようにタイトル戦無敗で達成したのではなかった。
藤井は「時代が違うので単純比較はできないので……」としたが、「羽生先生はその後もトップとして活躍されているので、(自分も)長く活躍できれば」と語った。
今年に入って藤井は、王将戦、棋王戦、名人戦、叡王戦、名人戦、王位戦、王座戦と7つのタイトル戦を戦い終えたが、藤井に2勝以上したのは王将戦に登場した羽生だけだった。レジェンド羽生の強さを改めて感じる。さらに時代を遡り、あの大山康晴名人は69歳で亡くなるまでA級から陥落せず、63歳で名人戦に挑んだ化け物だった。藤井にはこの2人のような末長い活躍を期待したい。
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