本当は怖い「サウナで整う」の正体 特に注意が必要な人は? 医師が語る実体験「数秒間、脈が止まって“ヤバい”と」

ドクター新潮 ライフ

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放出される脳内物質

 サウナでたっぷり汗をかき、水風呂で火照った体を冷ますことで得られる清々しさはたしかにある。だがブームの中で懸念されるのは度を超した快感を求める行為だ。サウナ愛好家たちはその感覚を「整う」と呼ぶ。「サウナ→水風呂→外気浴」を1セットとし、これを2、3回くり返すと、外気浴中に恍惚の境地に至る。体が軽くなって宙を舞うような浮遊感に五感が研ぎ澄まされる感覚も伴うらしい。快感レベルを上げるにはサウナはより高温、水風呂はより低温でなければならず、それぞれ一定の時間入るべしと説く人もいる。

「整う」とは何なのか。国際医療福祉大学大学院教授で、日本サウナ・スパ協会の理事でもある前田眞治氏は「整う」の仕組みについて、こう解説する。

「体がリラックスするとき副交感神経が優位になって、いわゆる脳内麻薬が出ます。外気浴中にも同じことが起こるのでしょう」

 副交感神経は、内臓の働きを調整する自律神経の一つで、交感神経と対をなす神経だ。交感神経はアクセルに例えられる。この神経が活性化すると、例えば心臓に働きかけて心拍数が上がり、敵に襲われたときなどに立ち向かったり逃げたりする激しい活動が可能になるからだ。一方、副交感神経が果たすのは体のブレーキ役で、心身を鎮静させる。

 前田氏によれば、サウナや水風呂の後、人の脳で脳内麻薬が増えたかどうかを測定する研究は知られていないという。とはいえ「整っている」最中に独特の気持ちよさの自覚があるのだから、脳内で何かが起きているのは間違いないだろう。

体への負担のリバウンド

 それではどのようなメカニズムが働くのか。

「脳内麻薬はいろいろありますが、オキシトシンが分泌されて副交感神経が優位になるとともにβ-エンドルフィン、セロトニンなどが脳内で放出されると考えられます」

 オキシトシンはストレスを受けたときに増えるコルチゾールを抑える作用がある物質だ。「愛情ホルモン」の異名を持つ。例えば、赤ちゃんとスキンシップをする母親、父親などで放出が増えるといわれる。

 エンドルフィンには苦痛を緩和する効果がある。α、β、γの3種類のうちβ-エンドルフィンの効果は最も高く、モルヒネの約6倍の鎮痛作用を持つ。

 セロトニンは覚醒、精神の安定や安心感などをもたらす。この量が低下すると、不安、うつ、攻撃性の亢進などの精神症状が現れるとされる。

「サウナでも水風呂でも体に負担がかかる。そのリバウンドとして外気浴中に、心地よい状態を作り出す物質が脳内に放出されるのだと考えられます」(前田氏)

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