米軍が特別扱いするイスラエル軍の全貌 ガザの市街戦で投入される独自兵器「ナグマホン」、世界トップレベルの「C4Iシステム」とは
破られたアイアンドーム
「10月7日は『シェミニ・アツェレット』という祭日で、この日、ユダヤ教徒の人々は教会でダンスに興じます。ハマスはこの隙を狙ったと考えられており、実際にイスラエルが祭日に奇襲攻撃を受けたのは初めてではありません。『ヨム・キプル』という祭日があり、日本語では『贖罪の日』と訳されます。ユダヤ歴は太陽太陰暦で、日本など世界各国が使うグレゴリオ暦では9月末から10月半ばの間です。ユダヤ教徒はこの日、飲食、入浴、化粧や労働などが禁止され、断食を行います。1973年10月6日のヨム・キプルにはエジプト軍などがイスラエルに侵攻を開始し、第四次中東戦争が勃発しました」(同・ジャーナリスト)
祭日だったとはいえ、これまでイスラエルの防空システム「アイアンドーム」は、ハマスのロケット弾を迎撃してきた。命中率は75~80%とされ、1カ月で90%に達したこともあったという。まさに鉄壁の防御を誇っていたのだ。
「アイアンドームの評価は高く、ウクライナのゼレンスキー大統領も供与を切望しているほどです。しかし、ハマスはアイアンドームを打ち負かしました。安価なロケット弾を大量に備蓄し、7日に一斉発射して飽和攻撃を実施。アイアンドームの迎撃能力は限界を超えてしまいました。特にドローンによる攻撃が戦果を挙げたと見られています。戦力が劣る側が強い敵軍の油断を狙うという戦略は、攻守こそ逆とはいえ、ウクライナ軍とロシア軍の関係に似ています。ハマスのドローン攻撃も民生品を活用しており、ウクライナ軍の戦訓に学んだ可能性があります」(同・ジャーナリスト)
“実戦担当”の軍隊
第四次中東戦争は1973年10月6日に開戦したと先に触れたが、エジプト軍はヨム・キプルの祭日を狙って奇襲攻撃を仕掛けた。迫撃砲が一斉に砲撃を開始し、イスラエル軍の陣地に雨のように降り注いだという。
ソ連開発の対戦車ミサイルも使われ、イスラエル軍の戦車が多数、撃破された。その被害は甚大だった。
だが、10月11日から14日にかけてイスラエル軍は各戦線で反攻に転じた。最終的には国連の介入で24日に停戦が実現したが、この時点でイスラエルは軍事的勝利を確実なものにしていた。
「ハマスも同じ経緯を辿ると考えられます。イスラエル側の油断もあり、奇襲攻撃は成功しました。しかし、イスラエルは過去最大となる30万人の予備役を招集。戦車、多目的装甲車両、自走砲など戦力は充実しており、兵士の装備も世界トップクラスです。一方、ハマスの戦力は戦闘員、つまり歩兵だけです。戦車どころか多目的装甲車両すら持っていません。戦力の差は明らかです」(同・ジャーナリスト)
イスラエル軍は「世界最強」と形容されることもある。実戦経験が極めて豊富なことが理由だ。
「イスラエル軍は極めてユニークな軍隊です。まず、アメリカから毎年38億ドル(約5690億円)もの軍事支援を受けています。アメリカの最新兵器を優先的に購入することが可能で、これは最初に実戦で使用することが多いからです。例えば、ステルス戦闘機として知られるF-35は、2018年、イスラエル空軍がシリアで空爆を行った際、初めて実戦に投入されました。アメリカ軍にとってイスラエル軍は、いわば“実戦テスト担当”という位置づけなのです」(同・ジャーナリスト)
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