「行動変容」を促す治療アプリで医療を変える――佐竹晃太(CureApp代表取締役社長・医師)【佐藤優の頂上対決】
これまでの医療は薬の処方と医療機器による外科的処置がほとんどだったが、そこに新しい治療法が加わった。アプリによる治療である。すでに禁煙、高血圧の治療アプリが医療現場で処方され、保険適用もされている。その治療とはどんなものなのか、どれほどの効果があるのか。その開発企業を訪れた。
***
佐藤 3年前、日本の医療界には大きな変革が起きました。治療用のアプリケーションが誕生し、初めて保険適用されたのです。このアプリを開発したのがCureApp(キュア・アップ)です。
佐竹 従来の治療法は、薬を処方するか、医療機器を使って手術などを行うかのどちらかがほとんどでした。治療アプリはそれとは異なる「第三の治療法」で、患者さんの「行動変容」に力点を置いたものです。
佐藤 画期的ですね。すでに医療現場で広く使われているようですね。
佐竹 現在、ニコチン依存症向け治療アプリと高血圧向け治療アプリの二つが薬事承認され、4桁の医療機関で使われています。
佐藤 薬と同じように、医師が処方するのですか。
佐竹 はい。医師が処方し、アプリに任せきりにするのではなく、二人三脚で治療を進めていきます。当社は「医師の指導」+「治療アプリ」を「スマート療法」と呼び、推進しています。
佐藤 具体的にアプリは、どのように治療行為をするのですか。
佐竹 例えば高血圧向け治療アプリには「千里(ちさと)さん」というキャラクターが登場します。そのキャラクターと患者さんがさまざまなやりとりをして、アプリがその生活様式を把握し、患者さんに合った治療方法を提示してくれます。
佐藤 対話しながら、治療となる行動を促していく感じですね。
佐竹 ええ、治療アプリ内のキャラクターはチャット形式などでカジュアルに話しかけてくれます。ニコチン依存症向け治療アプリなら、朝、アプリを開くと「おはようございます。今朝はたばこを吸いたい気分ですか」みたいなチャットが始まります。「吸いたい」と言えば、無糖の炭酸水の爽快感で気分を紛らわすといったような提案をします。
佐藤 なるほど、無理のないアドバイスをしてくれる。
佐竹 高血圧向け治療アプリも同じで、血圧が高くなる要因は、患者さん一人ひとり違います。塩分の取りすぎもあれば、体重の増えすぎもありますし、ストレス、睡眠の状態も関係している。それと酒、たばこですね。そうした複数の生活習慣が原因になりますから、みそ汁を毎日飲んでいる人ならスープは飲まないで具だけ食べようとか、生活が不規則な人には何時までに寝ようといった、その患者さんに合った治療法に取り組めるようになっています。
佐藤 患者さんは毎日アプリを開くのですね。
佐竹 そうです。
佐藤 その度に食べたものとか、何時に寝て何時に起きたかも記録していく。
佐竹 ええ、まずその患者さんの行動をログ(記録)することが大切です。その行動を「見える化」して生活習慣をチェックしていくわけです。
佐藤 そこまでは一般のヘルスケアアプリでもありますね。
佐竹 ヘルスケアアプリとの違いは、患者さんへ出すメッセージのアルゴリズムが、医学的なエビデンスに裏付けられていることです。高血圧のガイドラインや論文をもとに、この患者さんにはこうしたら効くという証明されたものが、治療アプリに組み込まれている。
佐藤 だから医療なのですね。
佐竹 高血圧は薬を飲み始めたら、だいたい一生飲み続けなければなりません。しかし薬を減らしたいとか、あるいは飲まないですませたいと思う人もたくさんいる。この治療アプリはそれに応えることができます。実際、薬の量が減ったり、飲まなくてよくなったという人も出てきています。
[1/4ページ]