インドは中国に代わる「期待の星」になれない…インフラ不足以外にも懸念すべき感染症が

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G20で改めて露呈したインフラ不足

 インド政府は9月9~10日にニューデリーで主催した主要20カ国・地域首脳会談(G20サミット)を国威発揚の場として活用しようとしたが、皮肉なことにインフラ不足という欠点を改めて露呈する形になってしまった。

 世界から多くのメディア関係者が訪れる国際的な晴れ舞台は「IT(情報技術)大国」をアピールする絶好のチャンスだったが、通信インフラの不備のせいで大きな問題が生じてしまった。記者らが一斉に接続 したため、サミット会場の通信回線がパンクしてしまい、インド準備銀行(中央銀行)が一部地域で試験導入する「中央銀行デジタル通貨」をアピールする展示ブースでもトラブルが相次いだ(9月12日付日本経済新聞)。

 電力不足も深刻な問題だ。インドでビジネスをする外国人にとって頭痛の種は、頻繁に起きる停電である。

 インドの電力需要は、2030年までに現在の220ギガワットから410ギガワットにほぼ倍増すると予測されている。この膨大な需要を満たすためには、電源構成に占める割合が小さい原子力発電の拡大が不可欠だが、政府の原発増設計画は法律や土地所得、地元住民の反対が足枷となって大幅に遅れている(9月30日付日本経済新聞)。

 前評判は高いが、足腰が弱く実体を伴わない感が否めないインド経済。足元に吹くフォローの風を生かせる可能性は低く、インドが中国に取って代わる存在になるのは難しいのではないだろうか。

新たなウイルスの感染例報告も

 最後に、インドで最近起きた懸念すべき事象について触れておきたい。

 9月中旬、インド南部ケララ州でニパウイルスの集団感染が発生し、2人が死亡する事態となった。幸いなことに、同ウイルスの感染例が散発的に発生していた同州の初期対応が成功し、さらなる感染拡大は回避されたようだ。

 ニパウイルス感染症は動物から人に感染する人獣共通感染症 だ。感染したオオコウモリ(自然宿主)やオオコウモリに汚染された動物、食物を介して人間に感染すると言われている。無症状者から感染が広がる可能性も指摘されており、世界保健機関(WHO)によると感染した際の致死率は推定40~75%と極めて高い。WHOはニパウイルスを、新たなパンデミックを引き起こす可能性があるにもかかわらず現状では対策がほぼないウイルスの1つに挙げている。

 ニパウイルスという名称は、最初の感染例がマレーシアのニパ川沿いで発生したことに由来する。国立感染症研究所のウェブサイトによれば、同国でジャングルなどを切り開いて養豚業の規模を拡大させた結果、ブタが未知のウイルスと遭遇したという。コウモリを自然宿主とするウイルスが人間に感染した例には、SARS関連コロナウイルスやエボラウイルスがある。

 インドを含む南アジアから新たなパンデミックが起きないことを祈るばかりだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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