“NG記者リスト”が大炎上…「ジャニーズ」問題の本質は、日本のサラリーマン社会に蔓延する「自己保身と忖度」

国内 社会

  • ブックマーク

上得意様

 広告会社にいた時も「ジャニーズ忖度」は時々経験していた。営業担当が「これはジャニーズ案件だから……」などと言っていたのである。恐らくは「より、タレントに配慮し、事務所の臍を曲げるな」ということであろう。

 そして「TVブロス」時代にはもう一つの出来事があった。木村拓哉主演ドラマ「プライド」だ。これはアイスホッケーが題材のドラマだが、会場に訪れたエキストラに木村はホッケーの「パック(玉、と言っていいのか…)」を客席に投げるファンサービスをした。途中、木村は投げるのではなく、より強力な力が加わるスティックで打ち観客席へ。

 これが女性観客に当たり、彼女の歯が折れ、顔面に血が付き病院へ搬送。この8日後に日刊ゲンダイが報じるまでこの件は公にならなかった。これについてTVブロスは編集長の原稿で「日本一カッコいいとされる男は日本一カッコ悪かった」的原稿を執筆。これが上層部の逆鱗に触れ、再び編集長は上司から怒られる。

 その後も様々な出版社と付き合ったが、私がジャニーズ事務所に対して批判的なニュアンスで原稿を書いたり、ネットニュースでジャニーズを批判するようにも捉えられるタイトルをつけると「もう少し穏やかにしてください」と言われた。というのも、ジャニーズ事務所には「とてもお世話になっている」からなのである。表紙や付録にすれば雑誌は売れるし、写真集やカレンダーもドル箱。だから、「上得意様」なのである。

いつもお世話になっております!

 こうしたことからジャニーズ忖度はメディア界を覆ったわけだが、これって実際は一般企業も同じではなかろうか。分かりやすいのが「ゴルフボールを靴下に入れて車を傷つけ過度に保険金をせしめた」ビッグモーターだが、損保ジャパンを含めた損保各社は知っていたのに「大切なお客様だから」と容認。

 旧大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ」だって、官僚を接待することで甘い汁を吸いたい人間による接待である。私が知っているだけでも、広告会社が下請けのPR会社からパソコンを買ってもらっていたり、挙げ句の果てにはCM契約を取るために若手タレントをキャスティングに権限を持つ人物に枕営業をさせたりもする。

 役所による天下りはしばしば問題になるし、結局日本のビジネス慣習というものは「いつもお世話になっております!(だから仕事ください。貴方様のチカラが必要なのです)」となりがちだ。

 そう考えるとジャニーズ事務所に対するメディアの忖度の実態も一般企業や役所と同じものであろう。メディアを擁護する気は一切ない。何しろ私はジャニーズへの忖度で仕事を吹っ飛ばしたことがあるのだから。とはいっても、一般企業や役所に勤務している人々が「マスゴミガー!」と怒るのであれば、「あなた方も忖度と利益相反は常にやっていたんじゃないですか? あなた方の仕事のやり方だって、ジャニーズとマスゴミの仕事のやり様と大差ありませんよ」と言いたい次第である。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。