ジャニーズ、日大、ビッグモーター「謝罪会見」はなぜ失敗してしまうのか

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謝罪会見は成功しない

 謝罪会見の「成功のハードル」が上がっている。ビッグモーター、日本大学、ジャニーズ事務所など、不祥事を受けての謝罪会見がさらなる批判の材料を提供してしまうケースが続出しているのである。

 ジャニーズ事務所に至っては、本来、うまく事を進めるために依頼したコンサルタント会社が「NGリスト」なるものを作成し、それを報道陣に見える形で持ち歩いたことで、より批判のための燃料を提供することになるという始末。

 ネット生中継が珍しくなくなり、記者クラブ仕切りの会見も減った今、会見をする側は何に気を付ければいいのか。

 謝罪会見などについての知見をまとめた『その対応では会社が傾く―プロが教える危機管理教室―』の著者で、株式会社リスク・ヘッジ代表・田中優介さんに聞いてみた。なお当然のことながら、田中さんは上の三つの会見には関与していない。

闘争も逃走もダメ

――そもそもなぜ失敗が続出するのでしょうか。

 謝罪会見とは、解毒――起こした問題の毒を薄めるために行うものです。しかし、多くの組織が解毒ではなく、毒を増やしてしまいます。根本的な原因としては二つの「トウソウ本能」があります。記者と対決姿勢を示す「闘争」本能、はぐらかして逃げようとする「逃走」本能。とにかく「解毒」が目的だということを忘れてはいけません。

 闘う姿勢、逃げる姿勢、いずれもマスコミをより活気づけるだけの危険な行為です。

――しかし、記者の中には挑発を目的としている人もいるのでは。

 たしかにいるでしょう。しかし、それでも敵とみなすのではなくて、自分たちのメッセージを被害者、消費者、ファンに届けてくれる「郵便屋さん」だと考えるべきです。ジャニーズの会見で井ノ原快彦さんがそれなりに好感を持って受け止められたのは、そうした姿勢を感じた人がいたからではないでしょうか。

 謝罪会見の席では「順番に指名する」という発想ではなく、「質問をお願いする」という姿勢で臨むことが大切です。

 攻撃的な質問、あるいはほとんど記者個人の意見のようなものに対しても、「そういうご意見もあるのは理解しています。ただ、現在私共はこのように考えています」という姿勢で臨むのが望ましいでしょう。

「不祥事を起こした以上、この会見ですべての方に完全に納得していただく説明をするのは難しいと思います。なるべく今後も丁寧に説明をしていきます。そしてさらに私たちが間違ったことをしたら、またぜひご指摘ください」というスタンスです。

 常識的に考えて、どんな問題であろうと、国民全員どころか関係者全員が納得することさえほとんどありえないのです。

 それでもなるべく納得してくれる人を増やす努力は続ける、という姿勢を示すことが望まれるのです。

当事者が前面に出るべし

――会見に際して、コンサルタント会社や弁護士は必要なものでしょうか。

 裏方としては重要です。ただし、表舞台に出すかどうかは諸刃の剣です。たとえば弁護士はクライアントを「守る」のが仕事なので、マスコミと対立しやすくなります。不祥事を起こした当人でもないので、どうしても反省や後悔の念は薄い。そうなると記者に対して高圧的になることも珍しくありません。

 だから会見はなるべく当事者が自力で乗り切ることが望ましいでしょう。

――どんな準備をする必要があるのですか。

 弊社では2種類の資料を事前に用意します。「原稿用基礎資料」と「Q&P」です。前者は事実関係をまとめた情報の資料です。これを配布しておくことで、質問の数や時間は少なくなります。後者は「Q&A」ではなく「P」は「ポリシー」、つまり方針のようなイメージです。細かい文言ではなくて、基本的な考え方をまとめたものです。

 たとえば「パワハラやセクハラはあったのか?」という質問へのPは、「パワハラやセクハラの存在は、加害者側の意図と関係なく、被害者側の感じ方で決まる。したがって、被害者側があったと言うのであれば、真摯に耳を傾けたうえで直ちに謝罪をする姿勢を示す」というものです。

 ジャニーズの会見で東山紀之社長は、自身のセクハラについて聞かれて、つい「セクハラはしていない」と言い切ってしまっていました。おそらく東山さんの認識はその通りで、うそはついていないのでしょう。ただ、それでもなお即座に言い切るのはあまり良くなかったと思います。さきほどのPに基づけば、「私自身はそういうことをした覚えはまったくありません。仮に今後、そういう被害を訴えてくる方がいれば、きちんと耳を傾けたい」と答えたほうがよかったと思います。

具体的な工夫を

――他に気を付けることはありますか?

 大人数が集まる会見では、ある程度進行を事前に考えるのは当然でしょう。裏で要注意の記者について情報を共有することもおかしくはない。しかしそれはあくまでも裏での準備の話です。

 今回のジャニーズ事務所の件のように、NGリストをわざわざ作成し、なおかつスタッフが会場で持ち歩くなどというのは、論外です。これまでも会見場に持ち込んだカンニングペーパーをカメラマンに撮影された失敗例がありましたよね。

 混乱を避けるには、もっと具体的な工夫をしたほうがいいのではないでしょうか。例えば、100人を超えるような会見場では、番号入りのカードを記者の方に渡して、番号で指名する、といった工夫をするだけでもかなり効率がよくなります。

 また、会見はこれっきりではないという姿勢を示したり、ときには具体的な日程を発表したりするのもよいでしょう。それによって時間を短くすることもできます。

 さらに質問ができなかった人に対しては、あとからでも、できるだけ答える旨を最初に述べておいてもいいでしょう。「発言する姿がテレビで流される」ことを目的とするような記者もいるわけで、そういう人は書面のやり取りなど面倒なことは避けます。

 会見全部をネット中継することも多くなり、謝罪する側にとっては昔とは比べ物にならないくらい大変な時代となりました。しかし、だからといって「うまく乗り切ろう」と捉えるのではなく、「謝罪の意や誠意を多くの人にお伝えしたい」と考えることが基本ではないかと思います。

 もともとこういう会見でマイナスをプラスにすることはできません。間違っても、世論の逆転を期待してはダメで、せいぜいプラスマイナスゼロに近づけば上出来と考えてください。

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