【藤井聡太八冠・観戦ルポ】永瀬拓矢王座が「アマチュア有段者でも気づく勝ち手を逃した瞬間」 記者控室はどよめき、本人は「天を仰いだ」

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AIと共存する近年の将棋界

 最近のプロの対局のネットやテレビの中継では、AIが示す局面の優劣を点数化して示すようになった。これを見ていれば、野球やサッカーの得点状況を見るように「藤井が優勢だな」などと、将棋をあまり知らない人も観戦を楽しめるようになった。

 もはや将棋ではAIが人間のトッププロの実力を上回っているのは周知の事実となっている。かつては「AIに負けるようになったらプロ棋士は廃業」などとさえ言われていたが、実際にAIが人間の実力を上回った後も将棋の人気は衰えておらず、むしろ将棋界はAIとうまく共存しているともいえる。

 今回の王座戦のように、時には信じられないようなミスも犯すこともある人間同士の真剣勝負に人間は心を打たれるのだ。一方、藤井八冠も含め、プロ棋士たちが対局後に、自分の指した将棋をAIソフトにかけ、どの手が良くてどの手が悪かったかを検討することは当たり前のことになっている。

将棋500年の歴史の中になかった新しい囲いを将棋ソフトが発見

 それどころかAIの手からあらたな戦法や玉の囲いを発見することもある。将棋はまず金や銀で玉を城のような囲いの中に入れ、安全を図ってから戦闘開始となるのが普通だ。その囲いには美濃囲い、船囲い、矢倉、穴熊など江戸時代から現代まで使われている囲いも多い。

 しかし、最近elmoという将棋ソフトが発見し、将棋ソフト同士の戦いで高勝率を挙げていた新たな囲いが、人間の将棋にも採用されて「elmo囲い」と名付けられた。将棋500年の歴史の中になかった囲いを将棋ソフトが発見し、プロ棋士を含めて人間が使うようになったのだ。

 中国から訪れて将棋のプロ棋士養成機関・奨励会にかつて所属、現在は東大工学部系研究科博士課程で人工知能を研究する張シンさんは、プロ棋士とAIが共存共栄している現状について「他のジャンルではAIと人間がうまく棲み分けできる分野でも、『AIにやらせていいのか』という抵抗が大きい。それに比べると将棋界はAIと人間共存共栄しており、理想的な関係になっている」と話す。

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