【竜王戦第1局】小学3年生の藤井聡太を泣かせた伊藤匠が敗れる 3年前に語っていたライバル心とは
小学生時代に全国大会で敗れ、号泣させられた相手との同学年対決が始まった――。将棋の竜王戦七番勝負(主催・読売新聞社)の第1局が10月6日と7日、東京都渋谷区のセルリアンタワー能楽堂において公開対局で行われ、藤井聡太七冠(21)が挑戦者の伊藤匠七段(21)に82手の短手数で先勝した。藤井は、19回目となるタイトル戦で初めて、自分より年上ではない相手と対局したことになる。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
「おかしな手を指した」
勝利した藤井は「序盤から動きのある展開で、こちらが押さえ込まれてしまいそうな局面が続き、中盤にかけては自信の持てないことが多かった。難しい将棋だったので、しっかり振り返って第2局に向けて準備をしていきたい」と話した。
藤井は、今月11日に京都府京都市で行われる王座戦五番勝負(主催・日本経済新聞社)の第4局で永瀬拓矢王座(31)に勝つと、史上初の八冠独占となる。そのことについて問われると、「数日後の対局になるので、まずはコンディションを整えて気負わずに臨めればと思う」と話した。
初となるタイトル戦に挑み初戦に敗れた伊藤は「1日目に長考した時におかしな手を指したと思っていて、そこから自信のない展開だった。素晴らしい環境で指すことができたが、内容があまりよくなかったので、次の対局はもう少し熱戦にできるようにしたい」と前を向いた。
横綱相撲の藤井
1日目、黒っぽい和服を纏った伊藤は、藤井より早く対局場に入ってきた。
振り駒の結果、伊藤が先手と決まり、序盤は互いに居飛車で飛車先の歩を進める「相掛り」模様に。事前研究の通りだったからか早い展開で進んだが、伊藤が1筋の端歩を突いたところから一転して長考合戦になった。伊藤は47手目の「4五歩」に129分もかけ、そのままゆっくりとした展開で進んだ。藤井が50手目、伊藤に角で取らせるよう「4五」に飛車を動かすと、51手目の伊藤が封じ手になった。
2日目の朝、開かれた封じ手は「3六銀」。予想外の手だった。ABEMAで解説していた高見泰地七段(30)も「予想外。藤井さんも予想していなかったのでは」と驚いていた。中盤になると徐々に藤井の形勢が有利になっていく。藤井が角2枚、伊藤が飛車2枚となり、藤井が次々と角を打ち込んで馬を作っていくのに対し、伊藤の飛車はなかなか成り込めない。手持ちの飛車も有効な打ち込み場所が見出せず、藤井による香車の「串刺し」や桂馬で金銀両取りをかけられるなど伊藤は苦しくなってゆく。
伊藤は最終盤、「6五」と「4五」の2枚の桂馬で反撃を試みるが届かない。82手目の藤井の「4七銀」は、金銀の持ち駒がない伊藤には受けがない。これを見て投了したのはまだ午後5時過ぎと非常に早く、2人とも持ち時間を多く残していた。
ABEMA解説で森内俊之九段(53)は「藤井さんの『7六歩』がいい手だった」などと話し、藤井の手の随所を「味のいい手」などと表現していた。とはいえ、最近の藤井の将棋は、一時期のような「AI越え」をする鋭い一手が勝利に導くケースが少なくなった印象だ。以前なら攻めたと思われる局面でもさっと自陣を固めるなど、非常に手堅くなっている。今回も終盤、攻めるかと思ったら、王を「5一」にさっと逃がす。豪快な投げよりも盤石の地味な寄り切りで勝つことが多かった昭和の大横綱・大鵬の相撲を思わせた。これが本当の強さなのだろう。
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