絶大な人気を誇った“白いロマンスカー”の完全引退迫る

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引退をめぐる憶測

 小田急の伝統を技術的に引き継ぐVSEが、小田急社員や小田急ユーザー、沿線住民、そして鉄道ファンの心を揺さぶらないわけがない。こうした部分がVSEの人気が高い秘密といえるが、人気が高いことと鉄道会社が長く使い続けることは別問題だ。

 そして、高い人気を誇りながらも18年という早すぎる引退が、小田急ファンや鉄道ファンから憶測を呼ぶ要因にもつながっていく。

 例えば、東京・大阪といった大都市圏の鉄道各社はホームドアの整備を急いでいるが、連接台車を採用しているVSEは他車と乗降扉の位置が異なる。乗降扉の位置が異なると、ホームドアを設置しづらい。

 近年、大都市圏の鉄道各社は安全対策やトラブルを未然に防ぐ目的からホームドアの整備を急いでいる。ホームドアを設置すれば事故やトラブルは大幅に減少し、それは定時運行にもつながる。

 そうした思惑もあり、ホームドアを早急に整備したいと考える小田急にとってドアの位置が異なるVSEは厄介な存在だった。ホームドアを整備するために、VSEを通常よりも早く引退させた――という憶測はファンの間では根強い。

 この憶測について、筆者は小田急広報にも、そして小田急OB数人にも質問した。しかし、一笑に付されている。

 そのほかにも、小田急は2021年にロマンスカーミュージアムをオープンさせている。海老名駅に併設するミュージアムには引退した歴代のロマンスカーがズラリと並んでいるが、当然ながら現時点でVSEは展示されていない。しかし、空きスペースがある。そうした状況から、ファンの間では「この空間は、ミュージアム開館時からVSEのために取っておいてある。だから、ミュージアムの設計段階からVSEの引退は決まっていた」との憶測は絶えなかった。

 その件についても、広報担当者などにしつこく質問していたが、「VSEが完全する ことは決まっていますが、今後についてはまったくの白紙です。ロマンスカーミュージアムに展示することは決まっていません」(同)と繰り返された。

 多くの憶測がファンの間に出回るのも、ひとえにVSEが絶大な人気を誇る車両だからにほかならない。それほど愛されていたVSEは残り一編成。間もなく、見納めとなる。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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