絶大な人気を誇った“白いロマンスカー”の完全引退迫る

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 小田急50000形VSE(=Vault Super Express)の完全引退が迫っている。

 VSEは、2005年にデビュー。登場直後から白いロマンスカーと親しまれ、鉄道ファンや小田急ユーザー、沿線住民などから絶大な人気を誇ってきた。

 VSEの引退が発表されたのは、2021年12月。引退発表時は2編成のVSEが運用中だったが、小田急は「2022年3月のダイヤ改正で定期運行を終了。それ以降は臨時列車として走り、2023年秋頃に完全引退する」との予定を示していた。

 そして、予告通りに一編成が2023年9月24日にラストランを迎えた。残る一編成も12月中にラストランを予定している。

 このままVSEが予定通りに引退すると、約18年で現役生活を終える。鉄道車両の寿命は走行距離や鉄道各社の経営方針などといった取り巻く状況で大きく変わるが、VSEの18年は明らかに短い。なぜ、VSEは短命になってしまったのか?

“ロマンスカーの復権”を掲げて登場したが…

「VSEは小田急が総力を結集して開発・製造した車両です。洗練された外観もさることながら、傾斜制御や車高制御といった技術面でも最高技術を盛り込みました。また車体も特殊な構造です。それがVSEの素晴らしい点でもありましたが、逆に最高の車両を目指してしまったために、部品が入手困難になってしまったのです。部品がないとオーバーホールできません。そうした事情から、引退することになりました」と説明するのは小田急電鉄広報部の担当者だ。

 VSEと同じくロマンスカーとして活躍中の30000形EXE(=Excellent Express)は、1996年にデビューしている。VSEよりも古い車両だが、こちらは引退する予定が示されていない。古くなったEXEは2017年から順次、オーバーホールされてEXEαへと生まれ変わって走っている。

 しかし、EXEはVSEのような華やかさに欠け、人気の面ではVSEの足元にも及ばない。なぜ、EXEは人気がないのか? それは、当時の時代背景が大きく起因している。EXEがビジネス特急としてデビューした当時、観光需要よりもビジネス需要が激しく伸びていた。そのため、小田急はロマンスカーの快適性を損なわずに定員数を増やすことを模索。そうした意図から、EXEは前面展望と“走る喫茶”を廃止した。

 この2つを喪失したことで、EXEは観光特急からビジネス特急の趣を強くし、それと同時にロマンスカーが特別な車両という意識を希薄化させた。

 VSEがデビューする以前のロマンスカーには、そんな前史がある。それだけに、VSEはロマンスカーの復権を掲げて登場し、廃止された前面展望や走る喫茶室を復活させた。これには、鉄道ファン・小田急ユーザー・沿線住民の期待を一身に背負うことになる。筆者の取材では、小田急で働く社員たちもVSEの登場には大歓喜したという声を多数聞いた。

 VSE登場後も、小田急は2008年に60000形MSE、2018年に70000形GSEという新しいロマンスカーを登場させているが、そうした新型ロマンスカーがデビューしてもVSEの人気は衰えていない。依然として高い人気を誇る。

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