密かに攻めているドラマ「落日」 無表情の北川景子を中心に描く「家族という集合体」の正体
話題の某事務所のアイドルをやたら起用して、日テレ同様「悪魔に魂売りましたね」と思わせてきたWOWOW。過ちに気付いたか、やや軌道修正した感もある。
唐沢寿明主演で政界の闇を描く「フィクサー」も、井上由美子の骨太な脚本が盤石で見ごたえがあるし、柳楽優弥主演でポップな死後の世界を描く「オレは死んじまったゼ!」もビジュアルが大好き(長久允作品は定期的に制作してほしい)。迎合しない制作陣と本物の役者で、WOWOWならではと思わせる、質の高いドラマを作ってほしいと願う。
【写真】主人公の長谷部香を演じるのは“1秒も笑わない”「北川景子」
その願いをエールに代えて今回取り上げるのは、湊かなえ原作「落日」だ。過去、湊作品は「贖罪」「ポイズンドーター・ホーリーマザー」を連続ドラマ化。私が勝手に名付けた「女WOWOW」シリーズ(男社会の企業モノや勧善懲悪に逃げず、感情の機微や悪意の発芽をきっちり露出して描く、女たちが主の物語)として期待できる作品に。
主人公は、事実に肉付けしたフィクション映画の監督で、国際的な映画祭で賞を取っている長谷部香。演じるのは1秒も笑わない北川景子。笑顔のない女が主人公というだけで好感がもてる。そもそも日本は女に笑顔を求めすぎ。仏頂面や能面が表現する女の信条&心情をもっと描くべきだ。
香が次回作の題材に選んだのは、15年前に高校生の妹(久保史緒里)を刺殺後、家に火をつけて両親も殺害したとされる死刑囚・立石力輝斗(竹内涼真)。「親がかわいがる美人の妹をねたんだ引きこもりの兄」という構図で語られていた事件だ。
脚本の執筆及び取材を依頼したのは、新人脚本家の甲斐真尋(吉岡里帆)。一家殺害事件が起きた町の出身という理由だが、真尋にはどうやら秘密があるようで。
香は幼少期、この一家の隣の部屋に住んでいた。母(真飛聖)から教育虐待を受け、真冬のベランダに出されたとき、隣の部屋で同じく虐待されていた子と指先で励まし合った記憶があった。それが被害者である妹だと思っていたが、事件の背景を取材していくと、加害者である兄のほうだとわかる。印象で語られ、次第にゆがんで、一人歩きしていく真実ってあるよね。報道とは異なる真実に触れ、事件の背景に真尋の家族も関係していたことが判明する。
家族の中で誰かが亡くなったときに生じる複雑な心理。それは「誰かのせいにする」責任転嫁か、あるいは「なかったことにする」現実逃避。やりきれない悲しみや怒りから、これで楽になるという状態を家族の中だけで共有して維持する。家族という密室がテーマでもあるのだとわかる。
香は父(夙川アトム)が自死、真尋は姉(駒井蓮)が事故死している。また、香の中学校の同級生で自殺した男子の家族も、喪失感を異なる形で内包し続けてきた。事件の真相を探る単純なミステリーではなく、家族という集合体の「正体」をまざまざと見せつける。
悪人でも死んだら美化され、善人は罪を犯しても責められない、そんな矛盾も描いている。密かに、でも確実に攻めている作品だ。