発売1週間で完売 中高年を夢中にさせる「8マンVSサイボーグ009」が実現した理由

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最大の魅力はラスト・シーンに

 もうひとつ、Aさんが歓喜したのは、その“装幀”だった。

「これは、日本で最初のコミックス・シリーズ〈サンデーコミックス〉の装幀デザインです。当時、雑誌連載の単行本化は、あまり盛んではなかった。そこに乗り出したのが、秋田書店の〈サンデーコミックス〉でした。創刊は1966年で、その第1弾が『サイボーグ009』だったのです。『8マン』も1968年に〈サンデーコミックス〉に入っています。今回、そのシリーズと同じ装幀で刊行されたことは、担当編集者がオリジナルをリスペクトしている証拠だと思います。しかも、今回の上下巻は、小口(本の外側の切断面)に、見事な“仕掛け”が施されているのにも驚きました」

 そのほか、本作には、谷博士の実子・ケンにまつわるエピソードが登場する。これは旧作のなかでも名編として知られる「決闘」と題する回が下地になっているのだが、なんと、その「決闘」本編が下巻の最後に再録されているのだ。

「たしかに『決闘』を知ったうえで読むと、今回の新作の面白さは何倍にも膨らみます。さらにTVアニメ版の『決闘』も名作で、シナリオは原作者・平井和正さん自身が書いているのですが、そのシナリオまでも再録されているのです。あまりに至れり尽くせりで、これほど隅から隅まで楽しめるシニア向けの漫画本は、そうはないでしょう」

 そして最後に、Aさんは、本作の最大の魅力に、ラスト・シーンをあげた。

「いったい、このような物語を、どう収拾をつけるのか。ちょっとドキドキしながら読みましたが、強いていうと『8マン』サーガとしてのラストになっています。実は『8マン』は、作画の桑田先生の不祥事で、突如、連載中止になったのです。そのため、ちゃんとしたラスト・シーンがないままでした。最後は、東八郎に恋していた秘書、関さち子が、東=8マンらしいと知るところで連載中止となりました。今回は、それを大きく踏まえたラストになっており、特に最終コマは、ほとんど“文学”です。幻想小説のような読後感が得られるでしょう」

 初出から約60年。009も8マンも、まだその役割は、終わっていなかったのである。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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