発売1週間で完売 中高年を夢中にさせる「8マンVSサイボーグ009」が実現した理由
絵柄の違いをどうやってクリアしたのか
本作の担当編集者、秋田書店「チャンピオンRED」副編集長の小林康毅さんに話を聞いた。
「岡崎つぐお先生の絵で連載していた『サイボーグ009 BGOOPARTS DELETE』の休載のタイミングで掲載するシリーズ連載の作品として、早瀬マサト先生からご提案をいただいてスタートした企画です。早瀬先生は石森プロ所属で、石ノ森章太郎先生の晩年のアシスタントでした。ともに加速機能をもつ同士、“8”と“9”の対決という設定にしたら、面白くなるのではないかとのアイデアでした。脚本をお願いした七月鏡一先生は故・平井和正先生とご親交が深く、早瀬先生もそのご子息とは親しかったので、『8マン』の許可をいただくことができました」
発売1週間で完売、増刷になったことについては、
「価格も上下巻あわせると2640円ですから、コミックスとしてはかなり高額です。それだけに、往年のファンを狙って売り切るくらいのつもりだったので、こんなに早く増刷になるとは思いませんでした。たしかに読者層の年齢層はかなり高めです。連載媒体の『チャンピオンRED』は30~40歳代が読者層の中心ですが、本作の読者は、さらに上だと思います。というのも、本作は電子出版でも出していますが、やはり紙の本のほうが、人気があるんです。連載時よりも、単行本化で本作の存在を知ったという読者も多い。それだけ大人の読者が中心で、むかしながらの“紙の漫画本を所有すること”を楽しんでいただけているのではないかと思っています」
問題の絵柄のちがいについては、早瀬マサト氏と七月鏡一氏が、石森プロHPでの対談で、こう述べている。
「『8マン』は連載当初は、後の桑田先生のクールなタッチというより、けっこう丸っこくてやわらかいタッチで描かれているんですよね。なのでなんとか上手く009の世界と交わることができる絵柄に落とし込む事が出来ました。8マンと009は等身バランスの違いがありますから、例えば、8マンの身長を若干低くしたり、009の手の大きさを小さくしたりなど、そういう工夫はしてます」(早瀬マサト)
「1回目の原稿を見て、石ノ森先生とはタッチが違う桑田風に上手くアプローチしてきたなと思いました。早瀬さん自身の絵柄は変わらないんだけど、桑田キャラを石ノ森風に落とし込むうまい着地点を見つけてきたなって。だから違和感は全然ありませんでしたね」(七月鏡一)
たしかによく見ると、クールで直線的なイメージのある桑田タッチの線が、若干、“石ノ森寄り”に丸みを帯びていることがわかる。石ノ森タッチのほうは、これはさすがに石森プロの早瀬氏だけあり、見事としかいいようがない。特に、石ノ森作品の専売特許ともいうべき、フキダシの端に筆文字で入る「なにしろ」「さすがに」などの“合いの手”は、往年のファンには懐かしく感じるところだろう。
だが絵柄はうまく“合体”できても、ストーリー設定のほうは、どうなのだろうか。
「そこですよ、いちばんの関心事は。本来、ともに平和を守るはずのキャラクター同士が、なぜ、“vs”(ヴァーサス=戦う)しなければならないのか」(Aさん)
そこが本作の魅力であり、往年のファンがもっとも気にする部分であろう。よって、あまりネタバレにならない範囲で、Aさんに解説してもらうと、
「8マンの生みの親は、谷博士です。その谷博士が、人質として“拉致”されるのです。いったい誰に拉致されるのか。これは、009のファンだったら、もう想像がつくでしょう。その谷博士を救うために、8マンは必然的に009たちと戦わなければならなくなる……そこに、デーモン博士もからんできて……ここまでにしておきますが、とにかくまあ、よくこんなストーリーを考え出したものだと感心しました。脚本の七月さんと、作画の早瀬さんは、両作品の真髄を見事に読み取って“合体”させ、新しい世界を生み出すことに成功しています」
名シーンのオマージュもある。「サイボーグ009」地下帝国“ヨミ”編のラスト。002と009が宇宙空間で敵を倒し、「ジョー! きみはどこにおちたい?」といいながら2人でそのまま地球へ落下する。ファンの間で、通称“どこ落ち”と呼ばれている名場面で、当時、ここが最終回とされていた。今回、これを思わせるシーンがちゃんと再現されているので、往年のファンは思わず唸ってしまうのだ。
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