「高血圧」「糖尿病」「脂質異常」予防可能性10倍以上の歩行量とは? 20年以上の研究で明らかに
歩数だけが基準ではない
さて、ここで肝心なのは中之条研究から浮かび上がってきた健康長寿をもたらす歩行基準が「歩数」だけではないということです。すなわち、単に「8千歩」歩くだけではダメで、「8千歩・20分」こそが病気を予防してくれるのです。
1日8千歩歩き、そのうち20分速歩きする。「7千歩・15分」も同じです。1日7千歩歩き、そのうち15分速歩きする。この速歩きが重要なポイントになります。仮にゆっくりと8千歩歩き続けて速歩きが0分だと、健康効果は30%程度減ってしまうのです。
速歩きは、運動学の専門用語で言うと中強度の運動ということになります。運動の強度は「メッツ(METs)」という単位で表され、1~3メッツ未満が低強度、3~6メッツ未満が中強度、6メッツ以上が高強度と分類されます。具体的には、低強度は簡単な家事やゲートボール、中強度は速歩きや階段の昇降、高強度はジョギングや水泳が該当します。
速歩きが重要な理由
なぜ中強度の運動である速歩きが大切なのかといえば、骨に適度な刺激が与えられたり、ふくらはぎの筋肉の収縮によって血液循環が促進されたり、また体温が上がることで免疫力が高まったりするからです。これらの効果は「普通の歩行」だけでは得にくい。
活動量計を着ければメッツを計測できるため、自分がどれだけ速歩きしたかが分かります。しかし、装着していなければ「3~6メッツ未満の中強度に相当する速歩き」と言われても、どれくらいのペースで歩けばいいのか分からないという人が多いに違いありません。
そこで、中強度の速歩きを感覚的に分かってもらうためのひとつの目安として紹介したいのが、「歩きながら歌は歌えなくても何とか会話はできるくらいの速さ」です。「普通に」会話ができる程度では中強度には達せず、「何とか」会話ができることがポイントです。やってみると分かりますが、結構、息が上がると思います。
年齢や体力によって何とか会話ができる歩行スピードは違ってきますが、運動の強度は「各人の体に与える刺激」ですので、当然、体力が異なる若者と高齢者で中強度に相当する速歩きのスピードは変わります。
8千歩歩く人は自然と速歩きを達成
速歩きの定義を踏まえた上で、どうやったら速歩きしやすくなるかのコツを説明すると、それは歩幅を広げることです。年を重ねて筋力やバランス力が衰えるなどすると、自然と歩幅が狭くなってきます。つまり、歩幅を広げることは老化にあらがうことであり、自ずと運動強度が増すのです。歩幅を広げれば自然とピッチ(速度)も上がっていきますので、まずは歩幅を意識してみてください。
ここまで、「8千歩・20分」の健康効果やそれをもたらすメカニズムについて説明してきましたが、そう言われても毎日20分も速歩きするなんてできない、そんな努力は続けられないと尻込みする人もいるかもしれません。しかし、それは全くもって杞憂です。なぜなら、8千歩歩けば意識せずとも自然に速歩き20分は達成できるからです。
私たちの研究で、1日8千歩歩く日本人の93%が20分以上の速歩きをしていることが分かっています。つまり、それほど意識しなくても、8千歩歩けば20分、7千歩歩けば15分、男女の差やスポーツをする習慣の有無に関係なく、自然と速歩きしているのです。
意外かつ不思議に思われるかもしれませんが、例えばサラリーマンであれば、通勤途中に駅の階段を昇り降りしたり、新宿や東京といったターミナル駅の雑踏ではゆっくり歩くことはできず自ずと速歩きしている。通勤は立派な運動習慣なのです。
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