「戦争が始まったら無傷では済まない」「島民の15%が自衛隊関係者」 台湾有事の最前線・与那国島ルポ

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ミサイル部隊の誘致

 ただし、島の緊迫の度合いはここにきて、増しているようにも見える。

「ミサイル部隊の誘致という議論が出てきて懸念が広がっている。レーダーによる監視部隊までは容認できたし、隊員の方たちも島になじんできたけど、ミサイルに対しては懸念する人がある程度いる。ミサイル部隊に関しては不安がっている町民が多いので、慎重に検討していく必要があると思っています」(嵩西茂則町議)

 5月15日、「地対空誘導弾部隊の配備に関する説明会」が島で開催された。できる限り説明することで自衛隊や町は、島民の理解を促し、不安を取り除こうとしたが、どちらかというとむしろ不安感や反感を強めてしまったようだ。

「自衛隊に反対している人、まだいるんですね。確かにミサイル配備は嫌だけど」(民宿の主人)

「自衛隊にしろ町長にしろ“危ない”と言って、中国の脅威ばかりあおり立てて無責任」(自営業者)

「国に聞いても返事すらない」

 賛成派も反対派も、意見は180度異なるが、誰もが台湾有事を、あるいは島の自衛隊強化を「自分事」として捉えている点は共通だ。

 しかし、国や県は違う、と糸数町長は言う。

「国に“有事の際、どうするんですか”と聞いても返事すらありません」

 県に対しては、不信感しかない様子だ。

「返事がないどころか、避難計画の策定や、滑走路、港の拡張にも否定的です。日米共同演習の際も、陸自装甲車両の県道通行許可には難色を示し続けた。昨年の9月、知事選の際、玉城(デニー)知事が島に遊説に来たんです。折角の機会だったんで、さまざまな要請をしようと思っていたんですが、“今回、公務ではなく政務で来ていますから要請は受け付けない”と。一方で、先日、訪中しましたが、その際は朝貢外交のような様子でしたよね」(同)

 そして、こうまで言う。

「滑走路や港、県道の使用について、もう県に何か言われるのはこりごりです。町に権限を移してほしい」

 知事に関しては、私自身も同様の体験をしている。前出の知事選の際、記者会見で、

「台湾有事になったらどのようにして島を守るつもりですか」

 と聞いた。

 シェルターの設置や避難のことを聞いたつもりだったが、返ってきた答えは、

「国が変なことをしないように抵抗するし、ミサイル防衛は体を張ってでも食い止めます」

 とのことで、非常に驚いた記憶がある。中台に最も近い都道府県の首長がこの姿勢。不安を禁じ得ない。

「いつも通りの生活を送るしかない…」

 2007年、私は書籍執筆の取材で与那国島を訪れた。その際、取材したのはこの島の衰退と復興にかける人々の姿だった。戦前、この島は同じ日本の「隣島」だった台湾との交流で栄え、島民は1万人を超えた。しかし、先の戦争後、突然、国境が引かれ、台湾との交流が途絶えた孤島を襲ったのは、深刻な衰退だった。島の人々は台湾航路の復活に復興の可能性をかけていた。

 その島は今、衰退はそのまま、復興もままならないなか、降ってわいた台湾有事に翻弄されている。

 まさに「国境の島」のさだめとでもいうべき歴史を歩む与那国。もっともそれを象徴するのは、取材中にある女性がつぶやいた話だった。

「自分の力で戦争を止められない。だったらいつも通りの生活を送るしかない……」

 100年後、日中の国境は果たしてどこに引かれているだろうか。

西牟田 靖(にしむたやすし)
ノンフィクション作家。1970年、大阪府生まれ。豊富な海外旅行経験を基に、旅・現場・実感によって立つ作品を発表し続けている。ルポ『ニッポンの国境』を著すなど、尖閣諸島や北方領土の取材経験も豊富。7月には『誰も国境を知らない 令和版』が発売された。

週刊新潮 2023年10月5日号掲載

特別読物「自衛隊配備に島民の本音は…媚中『デニー知事』は驚愕の対応 『台湾有事』ならミサイルが飛んでくる 最前線『与那国島』ルポ」より

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