「戦争が始まったら無傷では済まない」「島民の15%が自衛隊関係者」 台湾有事の最前線・与那国島ルポ
島民の15%が自衛隊関係者
自衛隊誘致によって隊員170人とその家族を合わせて250人程度が島に移り住んでいる。人口の15%近くを自衛隊関係者が占めるようになったことによって、島の雰囲気も変化してきた、と主張する。
「彼らは3年で交代するので島の文化を継承できない。また、彼らの年収は440万円ほどですが、元の島民は250万円もないので収入格差の問題もある。これだけ隊員の数が増えると、自衛隊に否定的だと選挙にも勝てなくなるし、商売も成り立たなくなりますので、本心は反対でも黙るようになる。建前と本音を使い分ける悲しい生活をしているのが現状です」(同)
取材すると同様の声は少なからずあった。
また、抑止力を高めることは必要との考えは認めた上で、そこに至るまでの過程を問題視する声も。
「2009年、外間守吉町長(当時)が自衛隊誘致を主張し、再選しました。その理由は地域振興。基地開設によって町への収益増が期待できると」
と、町議を2期務めた小嶺博泉さんは言う。
「しかし当初の目的からどんどん外れ、着々と軍備増強の方向へと向かっています。ピストル2丁のみという状態から、いきなり自衛隊ですよ。それよりも海上保安庁のほうが先だろって話ですし、自衛隊だとしてもイージス艦を東シナ海に展開することで十分です。ミサイル配備により島が標的にされるべきではない。島を要塞化するのに僕は反対です。北朝鮮からのミサイルに備える名目でPAC3を配備していますが、『射程の短さ』や『台風時に格納していた』等を考えると、本来の目的の真意はどこにあるのか。しかし、島には疑問を投げかけても同調する人は少ない。声を出すことに対しおびえているのでしょう。知らないうちに島がどこかの独裁国家のようになりつつあります」
戸惑う賛成派、反対派
中国が台湾を攻め、それに巻き込まれるかもしれない。だからこそ、軍備を整え、中国を諦めさせる――という賛成派。
日米があおり立て島を要塞化し中国を敵視するのは駄目。そもそも中国が攻めてくるはずがないのに危機をあおり立てるな――という反対派。
島を守るにしても過程や方法に問題がある――というもう一つの反対派。
自衛隊を誘致した10年ほど前とは激変した状況に、賛成、反対派双方とも戸惑っているように見えた。
避難訓練? 知らなかった
では、一般の町民は何を思うのか。島に住む若い漁師に話を聞いた。
――昨年8月の中国のミサイル発射のせいで4日間、操業の自粛要請が出たそうですね。
「島の雰囲気は何も変わらないですよ。要請を守ったのは1日だけ。8月は漁が忙しい時期だったので」
――でも11月に避難訓練があったり、日米共同演習があったりして、島内がにわかに緊迫したのでは?
「避難訓練? 海に出てたから知らなかった。日米共同演習? 機動戦闘車が走ったそうだね、見てなかったけど」
実際、11月の避難訓練に参加した住民はたったの22名。一方、反対派が大挙すると見られていた日米共同演習もデモに参加していたのは10名ほどで、報道陣の方が多かった。
そのほか、島で会う人々に話を伺ったが、おっしゃることは似たり寄ったりだった。
「避難訓練と日米共同演習は終わってから知った。島の外の人からは心配されるけど島に変化はない」(雑貨店店員、女性)
「島は特に変わらんさ。町長や町議が騒いでるだけ」(サービス業、男性)
「中国のミサイル発射以後も、島の雰囲気は特に変わらない。台湾有事は現状起こらないと思うし、不安もない」(サービス業、男性)
「台湾有事? 何も変わらない。空港の防災無線が壊れてると3カ月前に言ったのにまだ直っていない。それぐらいのんびりしてる」(飲食店店員、女性)
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