「戦争が始まったら無傷では済まない」「島民の15%が自衛隊関係者」 台湾有事の最前線・与那国島ルポ
島からの脱出は困難
万が一、攻撃を受けたとき、町は島の人たちの安全をどのように確保するのか。
糸数町長は言う。
「シェルターの建設を国にお願いしていますが、全戸に整備するのは物理的にも予算的にも不可能。業者は足らないし予算もない。どこに造るのかという問題もある。庭か地下を掘るのは不可能です。ミサイルが発射されて着弾まで約8分。三つある各集落にそれぞれ一つ造るとしても、島に点在する洞窟(ガマ)を利用するにしても、全町民が逃げ込む時間的猶予はありません」
島からの脱出も困難である。2017年、町は有事に全町民が島外避難することを念頭に国民保護計画を策定している。しかし町ができるのは町民を空港や港に運ぶところまでだ。そこから先は、国や県との調整が必要なのだ。
実際はどのような避難が可能なのか。
「民間ジェットが飛べば1回150人乗れる。船は大きな揚陸艦が横付けできれば、自衛隊関係者を除く島民1500人を乗せることができるでしょう」(山森氏)
しかし、
「今、石垣や那覇と島を結ぶ飛行機は50人乗り。また、石垣と結んでいるフェリーの定員は120人です。現在の港の規模では、大型船舶は入れない」(糸数町長)
そのため、
「現在の与那国空港の滑走路は2千メートルです。その西側に利用可能な土地がありますから、500メートル延伸し、有事の際は大型輸送機をチャーターしたい。港湾については、島内にある久部良(くぶら)港と祖納(そない)港の整備は難しいので、比川(ひがわ)への新設を国や県に要請しています」(同)
しかし、どちらも色よい回答は返ってこない。
“台湾に逃げてきなさい”
シェルターにしろ、避難計画にしろ、まだ計画の端緒というのが実情のようである。
現状の推計では、
「民間ジェットを4往復させる。あるいは、大きな揚陸艦を沖に停め、岸壁と船の間をボートでピストン輸送する。50人ずつで30往復。これに漁船とクルーザーを組み合わせて、全員が避難するのに1日かかる」(山森氏)
そのような困難すぎる状況を察したのか、町長は台湾側から次のように言われたことがある。
「島が小さくて逃げ場がないでしょう。台湾に逃げてきなさいよ。こちらにはシェルターがたくさんありますよ」
直接狙われる可能性を覚悟してきた台湾には、主に地下に造られたシェルターが全土に10.5万あまり点在、8665万人以上を収容できるという。
それにしても、直接攻撃にさらされる地から避難の誘いを受けるとは。喜劇のようでもあり、悲しい話でもある。
「中国を敵視したやり方は駄目」
住民を守らんと悲愴感すら漂う町長。が、一方で、島民は一枚岩というわけではない。
「台湾有事はまず起こらない。台湾人も現状維持」
冒頭の田里町議は以下のように主張する。
「中国はこれまでの繁栄を無にしたくないでしょう。それに台湾を攻めてその産業を破壊して得になることがありますか。台湾も現実的で、統一も独立もせず、現状を維持したいはず。アメリカだって、本音は台湾有事なんて起こらないと思っていますよ。ただ、自衛隊の基地を整備し、防衛費も出してもらいたいから、あおっているだけです」
として語気を荒らげる。
「抑止力を掲げて防衛体制を固めるという、中国を敵視したやり方は駄目です。そういうやり方じゃなくて、国境の島として、今後も姉妹都市の花蓮市(台湾)を中心とした近隣アジアとの交流によって繁栄を目指すべき。島内から声を上げれば、山が動くんじゃないかと期待しています。このまま島が要塞化されることを食い止めなければならない。私もまだ諦めていない」(同)
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