公務員なのに給与がない「公証人」とは何者か――西村尚芳(霞ヶ関公証役場公証人)【佐藤優の頂上対決】

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「風に翻弄された」

佐藤 私の罪状は背任と偽計業務妨害でしたが、ターゲットは鈴木宗男議員だったわけですよね。偽計業務妨害の方でいえば、国後島にディーゼル発電所を造るのに、三井物産が鈴木さんのところに請託したら、私たちがいて、何らかの役割を果たしたという見立てだった。私は否認し続けましたが、西村さんはそれによく付き合ってくださいました。

西村 無理をすると、やっぱりどこかで破綻しますからね。ただ三井物産にしか仕事を取らせないというと、それは談合指示になるわけですよ。

佐藤 本では、西村さんの口も借りて「国策捜査」であることを強調しましたが、当時、外務省は鈴木さんへの依存がすごかった。そこに田中真紀子議員が外務大臣に就任して、次々問題を起こしました。それを鈴木さんの力を借りて排除しましたから、今度は鈴木さんの支配を恐れて、距離を置こうとした。

西村 あの時は、ものすごい風が吹いていましたね。こんなことは普通ないだろうということが多々起きました。例えば、外務省は非常にプライドの高い役所で、なかなか資料を出してこないのですが、それがびっくりするくらい協力的だった。

佐藤 外務省には審査室という部署があって、報償費(機密費)を扱っています。審査室の書類は門外不出なのですが、西村さんが持ってきた書類に、そこにしかない情報源を記したものがありました。

西村 普通なら見られないものがたくさんありましたね。

佐藤 「時代のけじめ」という言い方をされていましたが、国策捜査は誰かが時代を転換させようとし、それを民意が支持した時に起きる。

西村 佐藤さんの本に出ている私の発言は、あくまで私の「感想」でしかありませんが、当時、何らかの風が吹いていたのは確かです。それは被疑者になっている佐藤さんも、捜査官である私も同じように感じていたと思います。共に翻弄されていたといえるかもしれません。

佐藤 組織に無理をさせられていたという面は、どちらもあるでしょう。私自身は、外務省で課長補佐にもなっていないのに、総理大臣と直接会ったり電話したりして、課長や局長をすっ飛ばして仕事をしていた。ロシアではワンクッションでエリツィン大統領に会えるところにいました。でも、それだと官僚組織が持たない。

西村 嫌な官僚ですねぇ(笑)。

佐藤 そこが見えていなかった。

西村 そうした無理が事件化するわけです。無理は風向きがいい時には問題ありませんが、風向きが変わると事件になります。

佐藤 イスラエルの国際会議へ学者らを派遣した件では、いい仕事したね、目の付け所がいいね、と言われていたのが、2年後には背任事件となった。決裁が下りている話だったのですが。

西村 少なくともお金に関しての無理は危ない。それは事件になります。

佐藤 おっしゃる通りです。政治的問題もいったん経済事件に変換されますから、やっぱりお金なんですよ。

西村 特捜部の事件は、基本的に経済事件です。

佐藤 でも私は捕まらなければ、早死にしていたかもしれないんですね。仕事漬けで昼夜なく、病院にも行かない。そんな生活でしたから。それが捕まって、激務から解放された。外務省を辞めてついてきてくれる人がいて、その人と結婚した。そして腎臓が機能しなくなった時、彼女が自分の腎臓をくれたのです。それで移植手術ができた。

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