フランスの国家的スキャンダルを描く問題作で主演の有名女優が感じたこと

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 フランスの国際派俳優、イザベル・ユペール主演の映画「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」が、間もなく公開される。ユペールが演じた主人公は実在の人物で、国家的スキャンダルをはらむ事件の内部告発者であり、性的暴力を受けながらも逮捕された。2012年に発生した事件を描くセンセーショナルな作品に、一体なぜ出演を決めたのか。リスクのある役に血を通わせたユペールに話を聞いた。

原子力企業の内部告発者となった実在の女性

 本作のベースになった事件は、世界最大の原子力企業「アレバ」(現オラノ)で組合代表を務めていたモーリーン・カーニーさんが、フランス電力公社(EDF)と中国の電力会社が交わした契約を内部告発したことに端を発する。契約によって同社の核技術が中国に移されると、従業員の大量解雇につながる恐れがあった。

 内部告発者となった彼女は匿名の脅迫を受け、ついには自宅で性的暴行に遭ってしまう。だが、虚偽の性的暴行告発を行ったとして国家憲兵隊に捕らえられ、一度は自白に追い込まれた。それでも、女性憲兵隊員らの地道な捜査により、裁判で無罪を勝ち取った。

 この事件は当時、「アレバ」とEDFのCEO、中国、ニコラ・サルコジ大統領、経済大臣らの関与がささやかれた。性的暴行告発の虚偽では無罪となったが、脅迫や性的暴行は未解決であり、首謀者なども不明だ。フランス国内では、どのように受け止められていたのか。

「この事件が起きた2012年当時は、メディアでよく報道されていたと思います。でも、個人的にはあまりよく知りませんでした。深く理解したのは、映画の原作であるノンフィクションを読んでから。記者カロリーヌ・ミシェル=アギーレがこの本を出版したのは2019年ですが、それ以前も独自取材をして雑誌で発表していました。彼女の記事や若い女性国家憲兵隊の捜査が、裁判を勝利に導いたと思っています」(イザベル・ユペール、以下同)

「誰もが助けたいと思う犠牲者」ではなかった

 当時のユペールは韓国やイタリア、米国など、世界各地で撮影に臨んでいたので、自国のニュースに触れる機会が少なかったのだろう。今回の撮影に際し個人的なリサーチは特に行わなかったが、資料のなかに興味深いラジオドキュメンタリーがあったという。

「事件にかかわった人の話を、さまざまな立場から聴くラジオドキュメンタリー番組で、カーニーさんの冤罪を生み出した国家憲兵隊の曹長にあたる人も出演していました。自分が演じる役を真っ向から否定する意見を聴く体験は、実に興味深いものでした」

 このラジオドキュメンタリーで、演じるカーニー像を作り上げながら想像していたことが確信に変わったという。

「さまざまな立場の人の言葉から感じたのは、カーニーさんには良くも悪くも二面性というか、曖昧さがあったこと。私もそう感じていたので、直感は正しかったという手ごたえを感じました」

 誰にも頼らず沈黙し、1人で解決しようとする姿は強さを感じさせる一方で、いかようにも受け取れてしまう曖昧さだともいえた。

「そんな彼女の傾向は、彼女と思惑が異なる人々に“付け入る隙”だと感じられたことでしょう。彼女は若いころにも暴力事件に遭っていました。彼女の曖昧さや沈黙が男社会の中で勝手に解釈された結果、その暴行事件のせいで『話を作ってしまう』精神的に弱い人間であるとされ、付け込まれるポイントとなったのではないでしょうか。

 彼女はそうした意味で、『誰もが助けたいと思う犠牲者』ではなかった。そのことが、彼女を信じる人もいれば、そうでない人もいる状況を作り出し、性暴力だけでなく冤罪という2度目の暴力まで彼女にもたらしてしまったのかもしれません」

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