「私は壊れてしまった」 五輪を捨てて世界的スターになった女子体操「ケイトリン・オオハシ」が作る新時代とは(小林信也)

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 スポーツ界のスター誕生の定番は、オリンピックや世界大会での「金メダル獲得」だ。ところが時代の変化とともに新しい「シンデレラ・ストーリー」が生まれている。例えば女子体操。

 東京五輪に向け、日本のマスメディアが「世界女王シモーネ・バイルズ」ら金メダル候補を話題にしているころ、インターネットで世界の人々を驚嘆させ、注目を集めていたのは、ケイトリン・オオハシという名の女子大生だった。

 2019年1月12日、全米大学体操選手権のゆかでカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のオオハシがそれまで誰も見たことのない、底抜けに明るく、軽妙な演技で観衆を魅了した。マイケル・ジャクソンやアース・ウィンド&ファイアの曲に合わせて踊る姿は体操競技の概念を超え、魅力的なダンス・パフォーマンスそのものだった。

 マットのすぐ脇で、10人以上のチームメートがオオハシと同じ振りで楽しそうに踊る姿も印象的だ。得点は10点満点。オオハシの活躍もあって、UCLA女子体操部は優勝を飾った。そして、チームがこの演技をユーチューブに投稿すると、わずか1週間で4千万回以上再生された。その波は世界に波及し、現在の数字は2億回以上にも達している。ツイッターには「10点満点でも足りないくらい」とのコメントが書き込まれた。私も偶然この動画を見たひとりだ。言葉にできない衝撃に打たれた。

 東京五輪のスケボー解説者を務め、「ゴン攻め」などの名文句で話題をさらった瀬尻稜を思い出す。彼は当時24歳。実力的には世界一を争う存在だったが、「金メダルより、ネットに上げた動画でバズる方が魅力的」と言って出場しなかった。それを体現したのがオオハシと言ってもいい。

 弾けるように踊るオオハシの演技には「勝ち負け」を気にする様子は感じられない。採点する審判の存在さえ眼中にない。踊りたいように踊り、観衆と一体化する喜びに突き動かされている。随所で披露するアクロバティックな技も高度で見事だった。とくに、高くジャンプし、左右に開脚したまま床に着地する技には誰もがハッと息をのむ。男性には無理だ。私は全身に稲妻が走った。オオハシの演技は規格を超える衝撃と感動の連続。しかし、彼女は目前に迫る東京五輪に出ないことがわかった。

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