総額5000万円以上を騙し取った「結婚詐欺師」が、被害女性に「ショートヘアが好き」と囁いた理由

国内 社会

  • ブックマーク

「罪悪感を抱き、また金を出す。その繰り返しでした」

 本名は前田征美(まさみ)だったが、「私には前田征美(まさよし)と名乗っていた」(Aさん)ため、「よしくん」と呼んでいた。また、Aさんに対して前田被告は“電気工事会社の代表をやっている”と言っていた。この偽りのプロフィールを前田被告は騙しに使った。最初は“事務員の子が間違って入金し、今月の支払いができなくなった”などと言い、Aさんに50万円を用意させる。その後も何かと仕事のトラブル名目で、Aさんに金を無心していった。

「“親方が亡くなった。お前が長になって会社をひとつにしてほしいっていう遺言があった。どう思う”と聞かれたので“自分で決めたら?”と言うと、前田は“これから一緒に生活していく中で、助けてほしいこともいっぱい出てくるし、君のために会社大きくするんやから、君の意見も聞かせて”と言ってくるんです」

 自分との将来を考えてくれているのだ、と思ったAさんは、ふたたび金を用立てた。すると次もまた、会社のトラブルを理由に、金を無心してきたのだという。

「“会社がダメになってきたからお金が必要なんだ”と言い出しました。しかも“あの時の俺はそんな器じゃなかったのに。会社を大きくしなければよかった”とも言うんです。私が、会社を大きくすることに同意するようなことを言ってしまったからだ……と罪悪感を抱き、また金を出す。その繰り返しでした」

 こうして渡した金が450万円にのぼったころ、前田被告はAさんのもとから突然消えた。

早朝に現れた女性

「最初は、前田が私からお金をいっぱい借りて、返せなくなって逃げたんだと思ってたんです。なので、会って話をしようと、前田が“ここに事務所があるんだよね”と以前言っていた一角に行きました」

 すると、前田被告が乗っていた車が見つかった。待っていれば、会えるのではないか……。そう思ったAさんは深夜から張り込みを続ける。ところが早朝、やってきたのは前田被告ではなく、顔見知りの女性だった。

「その女性は、たまたま私が前田と初めて知り合った日、隣の席に座っていた女性で、しかも、私と同じように前田に騙された被害者だったんです。前田はすでに姿を消していました。前田は私と出会った頃すでに、その女性のところに転がり込んでいて、私とその女性を同時進行で騙していたということが分かりました」

 自分は金を騙し取られたとようやく確信したAさん。しかも別の女性も騙していたことまで判明した。そのうえ、インターネットを介し、同じように前田被告に金を騙し取られた女性たちとも出会った。Aさんも注意喚起のためにブログを開設したところ、さらに被害者が集まった。しかし、警察は相談を受け付けてくれなかったのだという。

 それどころか「“素人が何してるんですか”、“探偵気取りで何がしたいんだ”など、そんな言われ方をされて……」とAさんは悔しさを滲ませる。

次ページ:これ以上被害者が出ないよう、被害者がブログで情報発信

前へ 1 2 3 4 次へ

[2/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。