総額5000万円以上を騙し取った「結婚詐欺師」が、被害女性に「ショートヘアが好き」と囁いた理由
姿を消した“男”と裁判所で再会
「おやすみ 愛してるよ 誰よりもね」
ハートの絵文字を交えてそんなLINEを送ってきた男。関西地区に住むAさん(50代)は、恋人からの愛の言葉を眺め、眠りについた。ところが翌朝、男から「おはよう」のLINEが来ることはなく、以降、音信不通となる。
愛想を尽かされたのではなかった。事故や事件に巻き込まれたわけでもなかった。
最後のLINEから5年以上が経ち、次にAさんが男に会ったのは、裁判所の法廷。傍聴席と証言台を隔てるバーの向こうに被告人として座っていた。その男、前田征美被告(51)は兵庫、福岡、埼玉での3件の詐欺罪で起訴されており、2023年7月、福岡地裁で言い渡された判決は懲役3年2月(求刑懲役4年)。Aさんの恋人だったはずの前田被告は、全国を転々としながら金を騙し取り続ける“結婚詐欺師”だったのだ。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】
【写真】何人もの女性が悔し涙を流した…日本全国を股にかけて詐欺を続けてきた前田被告の“素顔”
前田の起訴事実は、2022年11月に埼玉県の女性から合計380万円を騙し取った結婚詐欺と、福岡、兵庫での寸借詐欺(それぞれ2021年6月と2022年7月)。福岡の事件で全国に指名手配されたのちも1年以上詐欺を続け、2022年11月、大阪で捜査員に見つかり逮捕された。
このうち、結婚詐欺は埼玉の1件のみ。しかし、事件化されなかったものは複数ある。冒頭のAさんも被害者のひとりだ。出会いは2017年1月。Aさんが母親の店を手伝いに行った日に、前田被告がたまたま飲みに来ていたことがきっかけだった。その翌年に前田被告がAさんのもとから忽然と姿を消すまでに、総額450万円を騙し取られた。
「店で初めて会ってから、連絡が来るようになり、そのうち付き合って欲しいと言われるようになったんです。一ヵ月くらいは断っていました。すると“お茶でもしようよ”と言われて近所の喫茶店で会うことに。しっかり断ろうと思っていたところ、指輪を見せてきて“待ちますから”みたいなことを言われて。それから数ヵ月、毎日のように“愛してるよ”とLINEが来たり“お茶でもしない?”と誘われたり、すごくマメに連絡が来るんです。だんだんとこちらも気持ちが動いてきて……」
こうして前田被告との交際が始まったという。
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