アマチュア野球の視察、優秀なバッテリーコーチの招聘…阿部慎之助・新監督が名将になるため巨人OBが送るアドバイス

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脱・昭和野球

 阿部新監督に求められるのは、まずはチームの若返りだという。“常勝巨人”の復活には、有望な若手を次々と育成し、抜擢して使い続ける必要がある。

「当然ながら1、2年のスパンでは達成できません。最低でも5年くらいの中期的な視野に立ち、巨人の未来を担う新人を何人も育てる必要があります。大変な仕事とはいえ、時間的な余裕もあるわけです。そこで阿部くんには、アマチュア野球の現状を視察してはどうかと提案したいですね。今夏の甲子園は慶応高校の優勝が大きな話題を集めましたが、いわゆる“昭和の根性野球”からの改革に成功したチームは、慶応以外にもたくさんあるからです」(同・広澤氏)

 高校だけでなく大学の野球部も同じ傾向にあるという。広澤氏は明治大学OBで、当時の監督は島岡吉郎氏(1911〜1989)だった。島岡監督が部員に鉄拳制裁を振るうのは当たり前のことで、「5発、10発、15発、“脳天が痺れるような”御大の鉄拳が飛んでくる」とさえ言われていた。

「私も70歳を過ぎた島岡監督によく殴られました。ところが、現在の明治大学野球部は、当時とは全く変わっています。令和を生きる高校生や大学生をどのように指導したら伸びるのか、アマ野球の現場で頑張っている監督は熟慮を重ねています。その姿勢を阿部くんによく見てほしいのです。なぜ私がこんなことを言うか、それは阿部くんが二軍監督だった時、その指導方法に昭和的なスパルタ精神が垣間見えたからです。育成が喫緊の課題である巨人のトップとして、何よりも見直してほしいポイントです」(同・広澤氏)

野村克也の書斎

 若手の育成には時間とエネルギーが必要だ。つまり、しばらくはチームの成績が低迷するリスクがある。阿部新監督が順調に原石を磨いていけばファンの批判を封じ込めることも可能だが、「新人は育たないし、チームの成績も悪い」場合は短期政権に終わる可能性もある。

「捕手には自信家が多いという特徴があります。『俺は野球が分かっている』という自負があり、それ自体は間違っていません。例えば、捕手は日常的に投手とコミュニケーションを取ります。内野手や外野手より投手の気持ちが分かっている。試合中ではことあるごとに監督の指示を野手に伝えます。守備に気を配り、投手の配球を組み立てながらゲームを進めていくわけですから、まさに“第二の監督”です」(同・広澤氏)

 これが捕手出身監督に名将が多い理由でもあるわけだが、捕手出身だからといって全員が名監督とは言えないことは前に見た通りだ。広澤氏は「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を思い出すという。一説によると、“鉄血宰相”と呼ばれたドイツのオットー・フォン・ビスマルクが残した格言だと言われている。

「野村さんが亡くなられた時、ご自宅に伺いましたました。書斎を拝見させてもらいましたが、本棚には中国の歴史書やマネジメント論、リーダー論といった夥しい量の書籍が並んでいました。どの本にも付箋が貼ってあったり、鉛筆で線が引かれたりしていました。読書家だとは知っていましたが、これほどの量の本を、これほど深く読み込んでいたとは想像もしませんでした。私たちは選手時代、野村監督のミーティングで徹底的に鍛えられました。野村監督の全ての発言には説得力がありましたが、経験だけでなく書籍から貪欲に学んだからこそ、名将の名をほしいままにしたのだと思います」(同・広澤氏)

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