「X」の呼び方問題はどこに落ち着く? メディアを悩ませる問題も(中川淳一郎)

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 2006年に誕生したツイッターが名称を「X」に変えて約2カ月が経過しました。私は編集者のため慣れなくてはどうしようもないのですが、これまで一言で伝えられていた「ツイッター」「ツイート」をどう表現すればいいのか、まだ社会・メディア業界全体でコンセンサスが得られておらず何が正解か分かりません。

 各メディアは「X(旧ツイッター)」「ツイッター(現X)」「元ツイッターのX」「X(前身はツイッター)」などと表現していますが、果たしてこれからの定番は何になるのか。結局世の中の風潮に合わせて各メディア、そしてXユーザーは決めることになるのでしょう。元々英語の「鳥のさえずり」を日本流に「つぶやき」と訳した「ツイート」は「ポスト」に。「リツイート」は「リポスト」となりました。「つぶやき」は2010年代前半には廃れ「ツイートした」「ツイッターに投稿した」「ツイッターで公開した」が定着しました。

 2010年ごろ、140文字だけ書ける「ツイッター」という言葉が一般的ではなかった頃は「短文投稿サイトのツイッター」「ミニブログのツイッター」などと呼ばれ、いつしか「ツイッター」は一般用語になりました。

 今後、現実的な線としては「Xにポストした」「Xに書き込んだ」「Xで公開した」となるでしょうが、「X」という一言が「ツイート」「ツイッター」以上に一般的過ぎるのが悩ましい。マスク氏の会社が「X」だから「X」にする理由は分かるのですが「X」だけだと何が何やらわからないんですよ。たとえばツイッターとXのことをよく知らない高齢者が新聞を読んだとしましょう。その新聞はXのことは「旧ツイッター」とは呼ばず、ただただ「X」と呼ぶだけにしたとします。

「〇〇社の山田社長はXに今後の計画を投稿」

 まるで意味が分からない。さらにメディアにおける「X」という文字の使い勝手の良さにも影響を与える。

「闇社会事情に詳しいX氏が声をひそめる。『実は、田中は過去に覚醒剤の密売で大金を手に入れました。田中の家は“シャブ御殿”と呼ばれていました』。田中容疑者の過去へも追及の手が厳しくなりそうだ」

 こんな感じの「X氏」や、プロレス興行で直前まで相手が決まっていない時に「X」ということにして謎めいた感じにしますが、これも使いづらくなる。

 もしも「X」が完全に定着した場合は書籍で「ツイッター」と書いていた部分は増刷の際、「本書で登場する『ツイッター』は現Xのことを意味します」とまえがきに追加する必要がある。

 それにしても私が分からないのが単なるアルファベットの一つをサービス名にしてしまうことです。日本に当てはめた場合「あ」や「な」などというサービス、商品名、会社名なんて意味不明。

 とはいっても破天荒なイーロン・マスク氏のこと。突然Xを「A」に変える可能性がゼロとはいえません。あと、多くの男性諸氏がビビっているであろうことは、ブラウザのタブに登場するロゴがエロ動画サイト「X VIDEOS」と似ている点。Xを開く度に「うぎゃっ、X VIDEOSが出てきた。後ろで妻が見てねぇよな!」と思うでしょう。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年10月5日号掲載

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