久々の「野島テイスト」に歓喜! 「何曜日に生まれたの」の不穏で不道徳な面白さ

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 混沌の平成初期、世間をざわつかせたドラマの名手といえば、脚本家・野島伸司だ。視聴者の好みがくっきり分かれるインモラルな描写に衝撃の展開。ハレーションが大きいせいか、民放キー局は次第に及び腰に。世間にこびたハートフル系ドラマしか許さず、野島的要素を削った結果が大爆死。野島は深夜枠や配信へと河岸を変え、虎視眈々(たんたん)と英気を養ってきた、そんな印象(いや、勝手な想像だけど)。

 個人的にはひそかに見守ってきた。「兄をガチャで選ぶ」とか「彼氏をローンで買う」とか、パパ活の背景や女子の近すぎる友情、マッチョなガテン系男とマグロ令嬢など、ちょいちょい平成初期の毒の残滓を感じさせる「野島味」を愛でてきた。微妙に尾籠で不道徳。清くはない人物や罪悪感を抱えた人物がしれっと呼吸する作品、私の好みなんだよな。

 で、この令和に復活したのよ、野島味のなんか得体のしれないドラマが! 「何曜日に生まれたの」の話だ。

 売れていない漫画家の黒目丈治(陣内孝則)は家賃支払いもギリギリの困窮一歩手前。毒舌で辣腕の編集長(シシド・カフカ)からは「丈治の娘で10年ひきこもっているすい(飯豊まりえ)をネタにするコラボ」を打診される。人気ラノベ作家の公文竜炎(溝端淳平)と組み、ひきこもるに至った過去の事件を根掘り葉掘り聞き出して、作品にするという。丈治は娘を慮り、一度は断るも、背に腹は代えられず。なぜかすいもやる気満タンで、外界へ飛び出す。

 すいは高校時代、学校の人気者でサッカー部のエース・雨宮(YU)の運転するバイクで事故に遭う。雨宮は亡くなり、すいは学校中から総スカンを食らい、ひきこもりに……と思わせた初回。すいの心の奥底にある真実を探るべく、公文と丈治と編集長とその妹(早見あかり)は、なんと盗聴&監視。すいのスマホにGPS&盗聴アプリを仕掛ける。すいが高校の同級生と会うときの会話もすべて盗聴。それもこれも作品のため。物語の完成度を高めるため。大人たちが27歳の元ひきこもり娘の行動を逐一盗み聞きして一喜一憂するわけよ。こういうとこが野島味。ただし、気持ち悪さよりも大人の滑稽さや保護者的な優しさを感じさせる運びに。

 もちろん野島味はこれだけにあらず。すいがひきこもりになった要因は高校のサッカー部関係の人々にあり。実はすいと相思だったのがサッカー部の人気者でお調子者の江田(井上祐貴)。阻んだのはDV父に隷従する母をもち、相当な策士の瑞貴(若月佑美)。雨宮の子供が欲しいと公言したストーカー気質のリリ子(片山友希)。キャプテンだが補欠、女子の着替えを盗撮していた城崎(濱正悟)と、心の闇が濃いめ&癖が強いキャラばっかり!(あえて野島味を強調してのご紹介な)。

 ひきこもりもわだかまりも謎も解けて、爽やかな青春と思いきや、中盤に登場した新キャラがこれまた心ザワつかせた。どうやら公文に生活を監視されている風味で、虚ろな目をした女性(白石聖)が! 私の脳内でインモラル警報が鳴り響く。目が離せないわけよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年10月5日号掲載

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