ロシア軍は戦々恐々…米国がウクライナに供与を決めた長距離ミサイル「ATACMS」のトンデモない実力 専門家は”微妙なさじ加減”に注目

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ATACMSと冬

 アメリカが「少量」を強調しているのは前に見た通りだ。これには「在庫」の問題も大きいという。

「ATACMSは1991年の湾岸戦争で初めて実践で使用されました。ところが、中距離核戦力全廃条約(INF)が2019年に失効したことから、アメリカ軍は射程500キロ超のミサイル開発にシフトしており、ATACMSの製造は終了しました。在庫は約4000発と見られているのですが、ウクライナの他にも台湾など供与を求めている国はたくさんあります。そのためアメリカ軍は、ウクライナにATACMSを無制限で供与することは反対していたのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 こうした状況から考えると、アメリカはATACMSを「ウクライナが冬を乗り切るための兵器」と位置づけている可能性が高いという。

「秋の終わりに差しかかかると、ウクライナの大地は泥濘と化し、戦車の移動が難しくなります。そして長い冬が到来し、大地は凍って軍事車両の通行は可能になりますが、今度は兵士が寒さで動けなくなります。ただでさえ戦線は膠着するわけですが、ATACMSの射程距離に入っているロシア軍は新しい陣地や兵站の構築さえ難しくなります。衛星で監視され、そこを狙われたらひとたまりもありません。ウクライナ軍はロシア軍を身動きできない状況にさせ、戦況を見ながら重要な軍事施設を破壊し、戦果を宣伝しながら春を迎えようとしているのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)

ロシア軍の悪夢

 春になるとNATO(北大西洋条約機構)加盟国から供与される航空戦力が揃うと言われている。これでウクライナ軍は、戦車を孤立させず、空の支援を得ながら反攻作戦を行うことが可能になる。

「ただでさえロシア軍はATACMSで身動きが取れなくなるわけですが、春になって航空戦力が整うと、かなりの脅威を感じると思います。もしロシアのプーチン大統領にまともな判断能力があれば、停戦交渉に応じても不思議ではない状況です。アメリカの狙いも、おそらくはそこにあるのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)

 停戦交渉が現実のものとなるためにも、ATACMSの大活躍が期待される。もちろん実力は充分だと専門家の誰もが太鼓判を押す。

「ATACMSを搭載しているコンテナは、HIMARSのロケット弾のコンテナと全く同じ形です。操作するアメリカ軍の兵士も『100メートル離れると、どちらか分からない』と口を揃えます。これは敵軍に監視された場合を想定しているからです。戦場に潜むHIMARSを発見し、軍事衛星やドローンで必死にコンテナを判別しようとしても、射程距離が80キロのロケット弾なのか、300キロのATACMSなのか分かりません。HIMARSは『高機動ロケット砲システム』と訳されるように、発射した後は高速で離脱することが可能です。そしてATACMSなら、マッハ3で標的まで飛んでいきます。こうなると、もう誰にも止められません。今冬、ロシア軍にとっては悪夢のような被害が出ると思われます」(同・軍事ジャーナリスト)

註1 :米共和党「M1エイブラムス戦車を提供すべきだ」…ウクライナ軍事支援でバイデン政権批判(読売新聞・電子版:2023年1月22日)

註2 :ウクライナのミサイル、ロシアの黒海艦隊司令部を直撃(BBC NEWS JAPAN:2023年9月23日)

デイリー新潮編集部

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