常温で水素を運ぶ画期的技術で世界を変える――榊田雅和(千代田化工建設代表取締役会長兼社長)【佐藤優の頂上対決】

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どうリスク管理をするか

佐藤 カタールの強気の姿勢は、千代田化工建設には、どんな影響を与えていますか。

榊田 現在はプロジェクトが大型化して、1件の契約が2兆円くらいになっています。それを金額が固定されたランプサム契約で請け負うことを余儀なくされています。

佐藤 何が起きようと、最初に決めた値段でやれ、ということですね。

榊田 はい。ですからコロナリスクであれ、戦争リスクであれ、ともかく建設会社が全リスクを負って完成させなければならない。

佐藤 工事で4万5千人もいれば、人件費が少し高くなるだけでコストが跳ね上がります。

榊田 その上、世界中で物価が上昇し、特に建築資材は2、3割上がっています。また昨年は輸送費が高騰しました。これらは不可抗力であり、物価高騰分はカタール側に負担してもらうべく交渉中ですが、簡単ではありません。

佐藤 世界はますます先行き不透明になっていますから、それは厳しいですね。

榊田 そもそも弊社と、オイル・ガスの国際メジャーや中東の国営企業とでは、会社の規模が違います。バランスシートが1桁、場合によっては2桁違う。顧客と元請け会社間の最適なリスク負担のバランスが重要であり、これは当社だけでなくエンジニアリング業界全体での働きかけが必要です。

佐藤 そこは理解を得られないのですか。

榊田 非常に厳しいですね。というのも、このランプサム契約は40年以上前に日本のエンジニアリング会社が主導して導入したものなのです。ただ当時はプラントの規模も小さかったですし、先方もまだ勉強段階でお互いにやりとりができた。でもいまは事業環境が大きく変わっています。

佐藤 伝統的なアラブの人間関係は、一族、客人、奴隷の三つです。カタールからすると、客人がやってきて仕事をするなら、責任はすべて客人にある、と考えるでしょう。

榊田 本来なら顧客と建設会社がいい塩梅でリスクシェアすれば、トータルのキャペックス(資本的支出)が下がります。そこには経済合理性がある。ですが、アラブ諸国ではなかなかそうなりません。

佐藤 イギリスだったら、王族に入り込もうとするでしょうね。カタールは内婚制で、いとこ婚が基本です。ですからイギリス人が王族の誰かと結婚し、その子供をいとこと結婚させ、内部に入っていく。これがイギリスのやり方です。

榊田 そういう考え方は、日本にはまったくないですね。

佐藤 私は外務省入省後にロンドン郊外のビーコンズフィールドにある陸軍語学学校で研修しました。そこには、カタールからの留学生も何人かいました。学校は非常に厳しいところですが、彼らは勉強しないでスポーツカーを乗り回していた。イギリスは、そこで人脈を作っているんですね。

榊田 人脈作りには、いろいろな方法がありますが、日本も学ぶべき所が多い気がしますね。

佐藤 それでは、千代田化工建設はどのようにリスク管理をしているのですか。

榊田 「戦略・リスク統合本部」というセクションがあり、100人弱が働いています。そこが国のリスク、プロジェクトのリスク、契約内容のリスクなど、ありとあらゆる分析をして、事業を進めています。実は、弊社は5年前にアメリカのLNGプロジェクトの遅延で2千億円を超える赤字を出しました。その際、二度とそうしたことがないようにと、この部門が新設されたのです。

佐藤 そこには裏の裏まで知り尽くした高度な専門家が数多くいるわけですね。

榊田 はい。一つのプロジェクトが兆の単位になると、10%損をしたら会社そのものが大きく揺らいでしまいます。ですからこの部署が非常に細かくリスク管理をしています。

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