「彼女は恋愛が面倒だったんでしょう」 自分に有益なことしかしないエリート女性と結婚した41歳夫の苦悩
子どもが泣くと隣の部屋へ「逃げる」
つきあって3ヶ月ほどで年末年始となったのだが、クリスマスにふたりでディナーに行こうと言ったら、「そんなの損するだけでしょ」と彼女は興味を示さなかった。どうせならイベント期間をはずして行ったほうがいいと主張したのだ。
「それは彼女の言うとおりなんだけど、イベントだからカップルで楽しみたいということもあるでしょと言ったら、そういうものなんだとつぶやいていました。迷ったり決断できなかったりする女性より、すべて合理的で効率的に判断していく希代子はつきあっていて楽だったけど、あまりの情緒のなさに愕然とすることもありました。でもそれも含めて、僕は彼女を好きになったんだと思う。というか、そう自分に言い聞かせて結婚したんです」
子どもが生まれると、希代子さんは「マニュアル」に従って淡々と子どもに接しているように見えた。だが、もちろん子育てはマニュアル通りにはいかない。手伝いに来てくれた母が「希代子さん、大丈夫かしら」というほど、彼女はイライラを押し殺して無表情になっていった。晋さんは自らも育休をとり、母に負担をかけないように妻と子のめんどうをみるようにした。
「赤ちゃんが泣くのは当たり前だからと言ったら、そうよねと答えるんですが、彼女は子どもが泣いても放っておくようになった。放っておいていいわけじゃない、せめて抱っこしてやればいいのに彼女は理不尽だと思うんでしょう、他の部屋に行ってしまうんです。子どもがニコニコしているときは積極的に関わるけど、泣くと逃げる。これはまずいだろうと思ったけど、僕もどうしたらいいかわからなかった」
子育ての相談にも行きたかったのだが、案の定、希代子さんは産休が終わったらすぐ勤務先に戻ると言い始めた。子どもがかわいいと思えないなら、その気持ちと向き合ったほうがいい、子どもなんてすぐに大きくなるんだから、今、一緒にいる時間を楽しもうよと説得したが、彼女は言うことを聞かなかった。
「役割を考え直さなければいけないと思いました。ただ、僕自身もどうしてもやりたかった仕事に従事できたのだから仕事をしたかったし、当時、1ヶ月以上の育休はとれなかった。会社に頼み込んであと1ヶ月だけ延ばしてもらい、あとは申し訳ないけど母に丸投げでした」
「生後4ヶ月にしては反応がなさすぎる」
それでも解せなかったのは希代子さんの態度だった。彼女にとっては義母となる人に育児をすべて任せているにもかかわらず、「子どもが痩せてきたのはどういうことですか」「生後4ヶ月にしては反応がなさすぎる」など文句をつけるようになったのだ。
「彼女は焦っていたんだと思う。何でもできた自分が子育てはできない。ちょうどいいことに僕の母がいたから丸投げしたものの、育児本とは成長の度合いが違う。これは僕の母がきちんと育てていないからだと責める。自分の責任はどうなんだと僕は言いました。オレたちの子だろう、と。母親に責任をなすりつけるのはやめてほしいと。彼女は僕をじっと見ていましたが、『そうよね、全部私が悪いのよね』と投げやりでした。反省している態度は見せなかった。どういう女性なんだろうと思いました。仕事はできるから勤務先ではさらに評価が上がったようでしたが、家での態度はひどかった」
とはいえ彼は希代子さんを嫌いにはなれなかった。なんとか自分が「生活を楽しむこと」「子どもと過ごす時間をいとおしむこと」などを教えてやりたいと思ってしまったのだ。
「こうやって話すと彼女が冷徹な人間みたいになってしまうけど、彼女に決して感情がないわけではないんです。ただ、彼女は子どものころから“自分にとって有益なこと”しかしない生活を送ってきた。だから本当は恋愛もめんどうだったんだと思う。それでもあえて僕と恋愛関係になったのは、自分の人生を早く決定してしまいたかったみたいなんです。30歳を過ぎて独身でいるより結婚したほうが、誰にも何も言われないですむし、子どもがいればなおさら。人が生きていく上で、ごく普通の形式的なことはすませて、自分の時間を大事にしたかった、と。子どもがいることで時間をとられるのは想定外だったみたいです。なにごとも想像だけではうまくいきませんよね」
晋さんはとにかく彼女と話した。納得いく答えが返ってこなくても、妻の気持ちを知ろうと努力した。
ひとり娘は、生後7ヶ月たってようやく保育園に入れることになった。
後編【自分の価値観を全否定されて号泣、脳梗塞で入院した義母にありえない陰口… 41歳夫が妻に感じる人間性への疑問】へつづく
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