「病院選びで一番大切なのは看護師」「看護師数が最も充実している県は…」医師が提言 「大卒看護師10%増加で死亡率は5%低下」という調査も

ドクター新潮 ライフ

  • ブックマーク

地域ごとに養成するほかない

 看護師の偏在も医師と同様の理由が指摘できます。要は養成数と就業者数には一定の相関がみられるのです。

 現在、日本全国には250を超える看護系学部が存在していますが、12~13年当時のデータで人口当たりの看護師養成数が少なかったのが神奈川、千葉、静岡、東京、埼玉、茨城といった都県。一方、養成数が多かったのが鹿児島、山口、香川、岡山、高知といった中国・四国・九州の県でした。

 看護師は医師以上に“地産地消”が顕著です。他県から越境して就業することはあまりなく、ましてや九州の看護師が関東に出てきて働くなどということはほとんど期待できません。結局は地域ごとに看護師を養成するほかないのです。

結局“カネ次第”

 さらに質の高い看護師の確保という点では病院の収益力もモノを言います。大型の医療機関になると、職員も千人規模になりますが、その約8割は看護師。病院経営の一番の要は、この8割の人件費を抑えながら、いかに優秀な人材を確保するかに尽きると言っても過言ではないのです。

 ところが病院というのは、地方の僻地であろうが東京の都心であろうが、収入となる診療報酬は同額。しかし、病院の土地代や人件費といった固定費は地方と都心とでは比べ物になりません。つまり、都心の病院は構造的に赤字体質にならざるを得ないところがあるのです。

 誤解を恐れずに言えば、質の高い看護師をそろえられるかどうかも結局は“カネ次第”です。金儲けに熱心な病院は“患者の健康よりも利益を優先している”などと誤解されがちですが、それだけ多くの患者が通っている、すなわち、数多くの患者を診療できる態勢が整っているということになります。

 患者の側も受け身ばかりでは最良の医療は望めません。病院の収益はおおむね各ホームページで公開されていますから、是非、ご自身のお住まいの地域にある病院の収益力について確認してみてはいかがでしょうか。

上 昌広(かみまさひろ)
医学博士、医療ガバナンス研究所理事長。1968年、兵庫県生まれ。内科医。93年東京大学医学部卒。99年同大学院修了。虎の門病院や国立がんセンターで臨床・研究に従事し、東大医科学研究所の特任教授などを経て現職。『病院は東京から破綻する』など著書多数。『厚生労働省の大罪 コロナ政策を迷走させた医系技官の罪と罰』が発売予定。

週刊新潮 2023年9月28日号掲載

特別読物「168医療機関、患者23万人調査で判明 『命を救う病院』選びで最重用は『看護師』」より

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[5/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。